■評価:★★★★☆4
「正義感」

【映画】ゆきゆきて、神軍のレビュー、批評、評価
奥崎謙三は1941年3月に岡山連隊に入営し、軍人となる。
1943年4月に当時、激戦地だったイギリス領東ニューギニアに派遣される。
部隊は敗走を重ねながら飢えとマラリアに苦しみ、千数百名のうち生き残ったのはわずか30数名だった。
除隊後は、昭和天皇を激しく糾弾している。
太平洋戦争は、昭和天皇が統帥権を行使したために起こったと考えているため。
※統帥権(とうすいけん)とは、大日本帝国憲法下の日本における軍隊を指揮監督する最高の権限(最高指揮権)
1969年、皇居の一般参賀で昭和天皇にパチンコ玉を発射し、暴行罪で懲役1年6か月の刑に服する。
1976年、『宇宙人の聖書!?』を自費出版。
宣伝のため、銀座、渋谷、新宿のデパート屋上からポルノ写真に天皇一家の顔写真をコラージュしたビラ約4,000枚をまく。(皇室ポルノビラ事件)。全国指名手配され、猥褻図画頒布で懲役1年2か月の刑に服する。
上記以外にも、車関係の工業所を営んでいたが、店舗の賃貸借をめぐる金銭トラブルから不動産業者を刺し、命を奪った過去もある。
サイコ野郎・奥崎謙三に密着したドキュメンタリーが本作となる。
奥崎謙三は、かつて自らが所属していた独立工兵隊第36連隊のウェワク残留隊で、隊長による部下射殺事件があった出来事を知る。命を奪われた二人の家族を連れ、処刑に関与したとされる元隊員たちを訪ね、真相を追い求める。
恐ろしい映画だった。
正義感が強すぎて怖い人と遭遇した人も多いのではないだろうか?
「正義」という大義名分があれば何をやってもいいって思ってる。
だから危険だし、怖い。
本作で密着する奥崎はまさに正義の名の元に、犯罪を犯してでもやりたい放題やりまくる男。
鑑賞後、私は正義恐怖症になった。
本作はひたすら、処刑に関与した元隊員たちをサイコ奥崎が訪れて真相を追求する内容。
いわゆる探偵であり、リアル推理小説である。
普通、探偵は事件現場を観察して推理したり、証拠探しをしたり。
あるいはトリックを検証して見破り、材料が揃ったら犯人に糾弾する。
だが、奥崎探偵は違う。
容疑者(元隊員)の元へアポなしで突撃する。
最初は落ち着いたトーンで真相を尋ねる。
平和である。
なかなか口を割らなかったら暴力を振るって無理矢理にでも吐かせる。
時には今まで行ってきた自身の犯罪を暴露したり、監禁予告をして脅しまでかます始末。
とんでもない男である。
こいつのヤバいところは暴力や脅しを何とも思ってない点にある。
世の中のためになるなら、いくらでも暴力を振るってもいいと思ってる。
だから怖い。もはや言葉が通じない。
だからこそ、訪問相手が二人目、三人目となると観客は怖くなる。
奥崎は最初は相手を立てて気持ち良くさせ、自然と吐かせようとする冷静に接するから。
「いつキレるのか」「いつ拳をかざすのか」と、観客はビクビクしながら鑑賞する羽目になる。
この男、生まれた時代が違えばとんでもない成功を成し遂げたのではないか。
自分の中の正義を信じて、突っ走れるのだから。
警察に囲まれようがおかましなし、逮捕されることも何とも思ってない。
やってることは胸糞なのに、不思議と元気を貰える。
スタイルがあまりに突き抜けすぎているから。
とはいえ、自ら“神軍平等兵”と名乗っている時点でやばい男だ。
ホント、思想が強い、正義感の強い人間とは関わりを持ちたくないと強く思った。
不満点をあげるなら、会話がちょっと聞き取りづらい。
奥崎が訪問する退役軍人たちは、お年を召している方が多い。
中には歯が半分くらいない人もいるので、ちょっと何を言っているのか分からない。
字幕があったら嬉しい。
そして、ラストは衝撃である。
奇跡としか云いようが結末。
何でこの映画がここまで評判が良いのか。
アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を獲得したマイケル・ムーアがなぜ本作を絶賛したのか、納得である。
頭のおかしい人間に密着したドキュメンタリー作品はコチラ。
■フリーソロ
ゆきゆきて、神軍の作品情報
■監督:原一男
■出演者:奥崎謙三
■Wikipedia:ゆきゆきて、神軍(ネタバレあり)
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):100%
AUDIENCE SCORE(観客):91%
ゆきゆきて、神軍を見れる配信サイト
U-NEXT:○(見放題)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(DVD)
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2020年4月現在