■評価:★★★☆☆3.5
「不条理な出来事」

【映画】ある戦慄のレビュー、批評、評価
誰にでも子供の頃に観て衝撃を受け、頭にこびりついて忘れられない映画体験ってある。
映画好きではなかった私ですら、トラウマとなった映画が2本がある。
この2本、大人になってからは、存在そのものをすっかり忘れていた。
専門学生になって映画好きに目覚めてから、雑誌やらで映画情報を漁っている中で、「これ、子供のころに観て怖かったやつだ!!!」と思い出した2本である。
1本目はスティーヴン・スピルバーグ監督のナチス物『シンドラーのリスト』。

実在の人物である実業家シンドラーが、自身が持つ工場の従業員である多くのユダヤ人の命をナチスから救った実話。
深夜だかにテレビで親が観ているのをたまたま一緒になって観た。
レイフ・ファインズ扮するナチス将校が異様な禍々しさを誇っていて、私は子供ながらに怖くて仕方なかった。
私が専門学生になり、たまたま読んでいた映画DVDの雑誌に書かれた『シンドラーのリスト』のDVDの発売記事を読んで記憶が蘇ったのだ。
もう1本は『夢のチョコレート工場』。

ジョニー・デップ主演の『チャーリーとチョコレート工場』で知っている人も多いだろう。
そのリメイク元となる。
謎に包まれた世界中で人気のウィリー・ワンカ社製のチョコレート。ある日、ワンカが「チョコレートに入った招待券を当てた人に工場に招待する」と告知し、ワンカファンの子どもたちが一同に介して工場見学をする話。
私が小学校低学年の頃、なぜか母親に連れられて公民館で観た。
サイケデリックな世界観と、子供が次々と消えてゆくストーリーが不気味で、記憶にこびりついた。
ジョニー・デップが『チャーリーとチョコレート工場』というタイトルでリメイクするという情報をTVか何かで知って、思い出した。
『ある戦慄』は、町山智浩さんの著作『トラウマ映画館』で紹介されている1本だ。

私の上記の2本のように、町山さんが11歳~16歳のころにTVで観てトラウマになった映画群。
そんな26本を紹介している本である。
ニューヨーク・ブロンクス。ジョーとアーティのチンピラ二人組は通行人からカツアゲをした後、マンハッタン行きの地下鉄に乗車する。そこには、幼い娘を連れたウィルクス夫妻、アリスとトニーの若いカップル、教師のパーヴィスと美人の妻バーサ、白人を憎む黒人アーノルドとその妻、同性愛者のケネス、休暇中の陸軍一等兵などが乗っていた。ジョーとアーティは乗客をからかい始める。乗客は逃げようとするも、ドアが故障していて他の車両に移動できない。調子に乗った2人はウィルクス夫妻の娘に手を出そうとする。そのとき、立ち上がって2人に挑んだのは意外な人物だった。
60年代の映画だったが、かなり面白かった。
スリリングなワンシチュエーションの密室劇。
ほぼ全編を電車の1車両のみで繰り広げる。
とにかく、主演の二人がクソ野郎。
独裁者のごとく、乗り合わせた乗客を横柄な態度で弄ぶ。
例えば、座席で横になっているオッサンの靴に火をつけたり、黒人のアーノルドを差別したり。
文字通り、やりたい放題である。
それぞれの乗客には特徴がある。
そのため、ジョーとアーティの弄りに対して、三者三様のリアクションを取るのだ。
私が面白いと思った本作の1番の見所である。
黒人のアーノルドは白人に対する憎しみが強い。
なので、ジョーがちょっと差別用語で絡むことで、みるみるうちに発奮するのだ。
他にも、女の前ではイケイケだったカップルの男のトニーであったり、あるいは腕を折った軍人など。
みんなの対応が実に個性的。
「こいつが絡まれたらどんなリアクションを見せるんだ?」と想像しながら、ついつい見入ってしまった。
昔の映画は、テンポの悪さで睡魔に襲われがちな印象が強い。
だが、本作は90分と短め。
見せたい場面を絞って描いているので、主演の二人が電車に乗り込み、本題となる「戦慄」始まってからは画面にくぎ付けになった。
ただ、肝心の本題が入るまでが長い。
5~6組いる登場人物たちの、乗車するまでのちょっとしたエピソードが描かれる。
全員が電車に乗り込んで舞台が整うまで、50分も掛かる。ちょっと退屈だった。
あと、上記のあらすじはAMAZONから抜粋している。
あらすじの最後に「立ち上がって2人に挑んだのは意外な人物だった」と書かれている。
本作を観ながら、私の中では「この騒動を止めるのは、あの一人の人物であろう」と想定していた。
私以外にも、この映画を見た人の多くは、ある一人の人物を連想したはず。
なぜなら他の乗客と違い、明らかに浮いているのだ。
あと、もしその人物が立ち上がったら、某有名映画のどんでん返しと同じ展開になるので。
残念ながらイメージしていた流れとは全然違う結末だった。
割と普通にあっさりと終わってしまったので軽く肩透かしである。
だが、本題に入ってからは緊迫感が持続して楽しめたので、満足度は大きめ。
確かに、電車って馴染みのある乗り物だ。
こんなサイコな連中と同乗したら、来たら恐ろしくて仕方がない。
実は私も数か月前に、電車内でサイコなオッサンに絡まれたので、この映画には妙な臨場感を覚えた。
町山さんもきっと、電車が馴染みのある乗り物だったから、この映画に入り込んでしまったのだろう。
トラウマ映画の1本に選出されるのも納得である。
登場人物を振り回す悪い主人公の傑作はコチラ。
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ある戦慄の作品情報
■監督:ラリー・ピアース
■出演者:トニー・ムサンテ マーティン・シーン ドナ・ミルズ
■Wikipedia:ある戦慄(英語)
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):86%
AUDIENCE SCORE(観客):88%
ある戦慄を見れる配信サイト
U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(DVD)
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2020年6月現在