■評価:★★★★☆4
「ロマンを追いかける幸せ」

【映画】ザ・ピーナッツバター・ファルコンのレビュー、批評、評価
本作の舞台裏はまるで映画の内容そのもののようなトラブルに見舞われ、公開が危ぶまれた。
主演のシャイア・ラブーフは奇行が多いことで知られ、扱いにくい俳優の一人に数えられる。
本作の撮影中、ラブーフは、彼が演じたタイラーのように泥酔して迷惑行為に及んで逮捕された。
拘留中にアフリカ系の警察官に人種差別的な発言を連発し、この事件がきっかけで本作の公開が危ぶまれる事態にまで至った。
本作のザックを演じるザック・ゴッサーゲンに伝えられた「君はもう有名だけど、これ(映画)が僕のチャンスなんだ。それを台無しにした」といった発言により、ラブーフは更生を決心してアルコール中毒の治療に取り組み始める。
映画と現実がリンクする奇妙な出来事である。
ノースカロライナ州の郊外。老人の養護施設に住むダウン症のザックはプロレスラーに憧れ、毎日プロレスのビデオテープを擦り切れるほどに鑑賞を繰り返していた。ある日、プロレスラーの養成学校に入るため、脱走する。時を同じくして、しっかり者の兄を亡くした漁師・タイラーは他人の獲物の密漁がバレ、ボートで逃げ出す。偶然、出会った二人はお互いの目的地が近いこともあって、共に旅を始める。やがて、ザックを探してやってきた施設の看護師エレノアも加わり、彼らの旅は想像を超える冒険へと変化していく。
鑑賞前はストーリーの起伏は少ない、アート色の強いミニシアター映画だと思っていた。
ところがどっこい、めちゃくちゃ泣かされてしまった。
まるでロードムービーのお手本のような素晴らしいストーリー。
本作は何といっても、ザックのキャラクターの魅力である。
最初、ザックはプロレスのビデオばっかり見るし、すぐに養護施設を逃げ出そうとして美人看護師のエレノアに迷惑をかけるし、ただのデブだし。
一切の魅力を感じられないワガママ野郎だ。
障害者だから仕方ないのだが、ただのトラブルメーカーといった感じで面倒なヤツの印象が強い。
だがストーリーが進むにつれて、ザックが天使のような魅力を帯び出すのだから驚きである。
ザックは野生動物のような純粋さを持っている。
ただプロレスが好き。ただプロレスラーになりたい。
ザックの欲求はそれだけ。
それ以外はどうでもいい。
ただ1つの夢に向けて突き進む。
こんなに素晴らしい思考の持ち主はなかなかいない。
みんなだって、そうなりたい。
でも社会がそうはさせない。
仕事をしないと生活できないし、仕事のために嫌なヤツに良い顔を見せたりする。
だが、ザックは後先考えずに猪突猛進である。
あまりの純粋さに、多くの人間が心を動かされるのだ。
道中で出会った漁師・タイラーも最初はうざいと思って、ザックをはねのける。
自身の失態で、最愛の兄の命を奪ってしまったタイラー。
ザックの純真さに心を打たれ、何とかザックを目的地に運んであげたくなるのだ。
まるで兄への贖罪のように。
看護師のエレノアもそう。
エレノアはただ仕事でザックの面倒を見ていた。
ザックの夢を追う純粋な気持ちを痛感し、エレノアの心にも変化が起きる。
天使のようなザックは、接する者のすべてを幸せにしていく。
なんと素晴らしいキャラクターだろうか。
果たしてザックはプロレスラーになれるのか。
ぜひとも観て確かめてもらいたい。
ハートフルなロードムービーの傑作はコチラ。
■ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
■バジュランギおじさんと、小さな迷子
ザ・ピーナッツバター・ファルコンの作品情報
■監督:タイラー・ニルソン マイケル・シュワルツ
■出演者:シャイア・ラブーフ ダコタ・ジョンソン ジョン・ホークス ザック・ゴッサーゲン
■Wikipedia:ザ・ピーナッツバター・ファルコン
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):96%
AUDIENCE SCORE(観客):96%
ザ・ピーナッツバター・ファルコンを見れる配信サイト
U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)、○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2020年8月現在