■評価:★★★☆☆3.5
「家庭崩壊」

【映画】蛇イチゴのレビュー、批評、評価
『ゆれる』『ディア・ドクター』の西川美和監督の2002年の作品。
日本のよくある中流家庭の崩壊をコミカルに描いた本作は、第58回毎日映画コンクール・脚本賞などをはじめとした、多くの賞を受賞した。
同じテーマを扱った作品で、すぐに頭に浮かんだのは『アメリカン・ビューティ』
こちらは家長である父が、会話のなくなった思春期の娘の同級生への一目ぼれに端を発して、家庭崩壊が始まる。
音楽は良いし、映像も美しい。
キャラクターもユーモラスで、家庭崩壊していく様が深刻に見えない。
アメリカ版『蛇イチゴ』といった内容である。
ある日、和やかだった明智家の祖父、京蔵が命を落とす。葬式の日、明智家の長男であり、父から勘当されていた周治が帰ってきた。その日から、家族のバランスを崩れ始める。
面白かった。かなり好きな映画だった。
ストーリーは平凡で、大きな起伏があるというわけではない。
割と想定できる展開が訪れる。
本作の素晴らしい要素はキャラクターである。
魅力的なキャラクター同士がぶつかり合うだけで、面白い物語になるということを見事に証明した一本である。
中でもずば抜けて魅力的だったのが、宮迫が扮する長男・周治である。
本作は周治の香典ドロボーのシーンから始まる。
香典ドロボー、つまりは人の命を金に換えるという愚劣さ極まりない行為。
悪人中の悪人である。
だが、周治が実家に帰ってくると、盗んだ香典を全部、父にあげるのだ。
(父は父で、家族に嘘をついてリストラを隠し、借金が膨らんでいたため)
その後、周治は父に、借金により崩壊しかかった家庭を回復させるためのちょっとした進言をする。
頭の良い周治を、両親ともに信用する。
妹の倫子は真逆で、「兄はそんなに優しい人間じゃない。何か裏がある」と勘繰る。
周治はそんな家族をあざ笑うように、常にへらへらしていてる。
周治は家族のピンチに手を差し伸べる良い兄なのか。
あるいは、家族すらも金にしか見えない詐欺師なのか。
この両極端の顔を持つキャラクター性が果てしなく魅力的。
しかも、観客は観ていて「良い兄であってくれ!」と願ってしまう。
っていうのも、母はめちゃくちゃ献身的に認知症の祖父を介護していたし、妹はマジメすぎるけど良い子。
ウソをついて、家計を火の車に追いやり、家庭崩壊寸前に追い込んだ父の被害者が多いのだ。
だから、何とか周治には救世主であってほしいと願ってしまう。
観客の感情誘導が絶妙すぎる。
周治は、本当は家族を破滅に導く悪かもしれない。
だが、家族が助かるには周治にすがるしかない。
そんな周治はへらへら顔で納豆ご飯をむさぼる。
本当に面白いキャラクターである。
他にもプライドが高いカスみたいな父や、腹の中では鬱憤が溜まりながら義父の介護に勤しむ母など。
みんながみんな、多面性のあるキャラクターなので、人間味がプンプンと漂う。
本作の脚本も手掛けた西川美和、おそるべし。
関連作品はコチラ。
■聖なる鹿殺し
■家族を想うとき
蛇イチゴの作品情報
■監督:西川美和
■出演者: 宮迫博之 つみきみほ 大谷直子 平泉成
■Wikipedia:蛇イチゴ
【h4】蛇イチゴを見れる配信サイト
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※2020年9月現在