■評価:★★★☆☆3.5
「アイデンティティの喪失、ジェンダー問題」

【映画】82年生まれ、キム・ジヨンのレビュー、批評、評価
本国、韓国で130万部を突破したベストセラー小説家の映画化。
キム・ジヨンというありふれた名前の女性を通して、韓国のジェンダー意識、性差別を描く。
韓国で最も一般的な名字の一つであるキム、1970年代後半から1980年代初期に産まれた女子に最も多く名付けられた名前がジヨン。
結婚・出産を機に仕事を退職し、育児と家事に追われる妻ジヨン。ジヨンは常に誰かの面倒を見る自身の生活にうんざりしていた。憂鬱気味なジヨンを心配する夫デヒョン。だが、ジヨンは深刻に受け止めようとはしなかった。ある日、デヒョンの実家に帰省する。義母やほかの来客の対応に追われ、ジヨンは限界を超える。するとジヨンは自身の母親が憑依したように、文句を放つ。「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。他にも今は亡き、デヒョンとの共通の友人になり、デヒョンにアドバイスを送る。その時の記憶はすっぽりと抜け落ちているジヨンに、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、一人で精神科に向かうが……。
本作は、アイデンティティの喪失をテーマとする。
アイデンティティ、つまりは自分らしさ、個性。
自分が自分であるための象徴がアイデンティティだ。
例えば、ボクシング一筋で、ボクシングだけをしてきた男。
この男からボクシングを奪ったら何も残らないと、男は嘆くだろう。
この男にとって、ボクシング=アイデンティティとなる。
キム・ジヨンというありふれた名前の主人公=アイデンティティの薄さを示唆する。
鑑賞して第一に思ったのは鬱は恐ろしさ。
人は大きな出来事があって唐突に崩れるのではなく、長い時間の蓄積で、静かに壊れていくということ。
もっと恐ろしいのが夫婦仲は決して深刻ではない。
むしろ、旦那のデヒョンはジヨンの体を気遣っている。
それなのに、鬱は着実に妻の体を蝕むのだ。
もちろんデヒョンにも問題はある。
些細な言動が、ジヨンの精神にダメージを与えていく。
例えば、ジヨンは育児に忙殺されて大変なのに『パン屋でパートをしたい』とデヒョンに告白する。
だが、デヒョンは『本当に君のしたい仕事なのか?』と止めさせようとする。
その対応に、ジヨンはしょんぼりするのだ。
確かにデヒョンはジヨンのためを思っての制止である。
だが、ジヨンは何か理由があって、パン屋の仕事に関心を抱いたのだ。
ジヨンの意思を決めつけて抑え込まず、デヒョンがやるべきは、『なぜパン屋の仕事をしたいんだい?』と真意を引き出すように尋ねるべきだ。
その後、出来る限り、ジヨンの意思を尊重する。
もちろん、ジヨンの鬱はデヒョンの責任のみではない。
ジヨンの学生時代のバス通学中での被害、父からの辛辣な対応など。
ジヨンは子供の頃から、女性ということで、肩身の狭い思いに苦しめられてきた。
この積み重ねが爆発したのである。
本作はエンタメとは真逆の、かなり地味なドラマ映画。
そのため、あまり評価は高くしていない。
だが、心に響く映画であることは間違いない。
男女関わらず、自分と深く関わる人間には話を聞いて、感情を引き出し、尊重していきたい。
私自身も、自分のしたいことを積極的にして、したくないことはできる限りしない。
この考えを優先して守っていきたい。
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■ソウル・サーファー
82年生まれ、キム・ジヨンの作品情報
■監督:キム・ドヨン
■出演者:チョン・ユミ コン・ユ
■Wikipedia:82年生まれ、キム・ジヨン
82年生まれ、キム・ジヨンを見れる配信サイト
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※2020年10月現在