■評価:★★★☆☆3
「怒り」

【映画】怒りのレビュー、批評、評価
『悪人』『横道世之介』の吉田修一著の同名小説を原作とする。
執筆のきっかけとなったのは、市橋達也容疑者によるリンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件。
ある日、八王子で若い夫婦が自宅で命を奪われ、犯人は逃走した。現場には『怒』の血文字が残されていた。事件から1年後、沖縄、東京、千葉に素性の知れない3人の男が出現する。
千葉――3カ月前に、家出した娘・愛子を連れ帰った父・洋平は千葉の漁港で働いていた。愛子は2か月前から父の漁港で働き始める田代と出会った。
東京――大手通信会社に勤める同性愛者の優馬。日中は仕事に忙殺され、夜はクラブで出会った男と一夜限りの関係を楽しんでいた。ある日、優馬は新宿で、直人と出会った。
沖縄――男で問題を起こした母と、夜逃げ同然で沖縄にやってきた高校生の泉。ある日、遊びに来た無人島でバックパッカーの田中と出会う。
殺人犯を追う警察は、八王子の容疑者の写真を公開する。その男の顔はどことなく、3人の男と似ていた。
序盤はめちゃくちゃ興味深い。
本作は群像劇の形式をとる。
何者かに一家の命を奪われる事件が発生する。
その後、謎の男3人が日本各地に姿を現す。
誰も素性を明かさないし、言動もどこか違和感がある。
だが、それぞれの男たちと接触する登場人物たちは徐々に距離が縮まり、仲良くなっていく。
「掴みどころのないこの連中のなかに、事件の犯人がいるのか。いるのならいったい誰なのか」
といった疑念を持ちながら、観客は鑑賞することになる。
非常に興味深い。
謎解き要素に引っ張られて、ぐいぐいと画面に釘付けになる。
だが、犯人が判明してからは、物語の持つ勢いが一気に失速する。
ミステリー要素で引っ張りながら、群像劇で描き、「怒り」というテーマを描く。
ちょっと華麗に描こうとしすぎじゃないだろうか。
そのせいで、犯人が判明した瞬間、意味不明な行動の明瞭化するキャラクターが続出する。
なぜこうなったかというと、ミステリー要素を描くあまり、キャラクターに不自然な行動を取らせないと成立しないからである。
具体的に描くとネタバレになるので、抽象的な説明しかできないのは歯痒い。
とにかく、キャラクターの行動がおかしいのである。
ひどく作者のご都合主義である。
犯人像が平凡なのも気になる。
もっとユニークな理由で犯行に至ったのなら良い。
だが、あまりに普通すぎて少し拍子抜けをした。
犯行現場に残した「怒り」という文字も直接的すぎる。
もっと抽象的、象徴的なほうが煽られる。
例えば何かのマーク・模様などにするとか。
そのマークを調べていった先に「怒り」的なメッセージに到達するなど。
何なら最後、犯人によるもう一つの壁文字も直接的で野暮ったく思える。
あと、不自然にテーマである「怒り」を描くシーンにも違和感を覚える。
何で、最後、広瀬すずが怒りを見せるかが謎である。
テーマを強引に成立させたとしか思えない。
途中までは面白かったのに、後半で一気に失速である。
ミステリー要素をもっと緩めにして、シンプルにドラマを描くことに力を注いでほしかった。
役者陣は好演していただけに、もったいない作品。
特に広瀬すずは体を頑張っていた。
広瀬すずの役者人生史上、いちばん大変だったのではないだろうか。
怒り・復讐をテーマとした作品はコチラ。
■ゼロ・ダーク・サーティ
■悪魔を見た
■ナイチンゲール
■ヒトラーの忘れもの
怒りの作品情報
■監督:李相日
■出演者:渡辺謙 森山未來 松山ケンイチ 綾野剛 広瀬すず 宮崎あおい 妻夫木聡
■Wikipedia:怒り
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):-
AUDIENCE SCORE(観客):90%
怒りを見れる配信サイト
U-NEXT:○(見放題)
Hulu:○(見放題)
Amazonプライムビデオ:○(見放題)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:○(見放題)
※2020年11月現在