■評価:★★★★☆4
「周囲に理解されない者同士の愛」

【映画】オアシスのレビュー、批評、評価
『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『バーニング 劇場版』『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドン監督による2004年公開の恋愛ドラマ映画。
29歳の青年ホン・ジョンドゥは、ひき逃げによる過失致死で2年6か月の刑期を終えて出所した。実家に帰るが、家族は引越しをしてしまい、居場所も分からなかった。飲食店で無銭飲食をして警察に捕まった彼の元へ、ようやく弟のジョンセが迎えに来て、ジョンセの運転する車で新しい家へと向かい、家族と再会する。しかし、社会不適応者である彼に対し、家族は暖かい対応をしない。2日後、挨拶しようとひき逃げ事故の被害者宅を訪ねたジョンドゥだったが、引越しの最中であった被害者の息子夫婦は怒って彼を追い返す。息子らは脳性麻痺である妹のハン・コンジュを置いて出て行ってしまう。ジョンドゥは残されたコンジュを再び訪ねる。
ヒロインの脳性麻痺者であるコンジュ役の女優が凄すぎる。
もはや本物の脳性麻痺者としか思えないほどに、表情や体を歪ませた振り切った演技を見せてくれる。
コンジュを演じたムン・ソリは、実際に医学的リハビリテーションで働いていた経歴がある。
そこで触れ合った脳性麻痺者を模倣して、本作に挑んだそう。
壮絶すぎる演技なので、顔が変形してしまわないか心配になるレベル。
コンジュは常に顔が歪んでいる。
だが、嬉しい時は、歪ませながらも喜びの感情を浮かべているのが分かる。
この辺りの演技も凄すぎる。
主人公・ジョンドゥとヒロイン・コンジュの二人の設定も良かった。
刑務所帰りで家族に嫌われる前科者と、脳性麻痺者で家族からは距離を置かれている女性。
この真逆すぎる2人の組み合わせが新鮮。
周囲からは煙たがられている共通点があるとはいえ、まったく異なる人生を歩んできた2人。
いったいどんな科学反応を見せてくれるのかと、期待しながら画面に釘付けになった。
この設定を思い付いた時点で、イ・チャンドン監督はほぼ勝ちである。
あとはストーリーの内容次第だが、肝心の内容も素晴らしい。
他に印象的なシーンが、コンジュの夢描写。
ジョンドゥとコンジュは仲良くなり、外でのデートを始める。
コンジュにとっては、初めてのデート。
そのため、随所で、あまりの楽しさにコンジュの感情が高ぶるときがある。
そんなとき、急にコンジュが健常者のような振る舞いとなって、ジョンドゥと戯れるシーンが描かれる。
つまり、コンジュが理想する夢が描かれているのだ。
これが本当に切ない。
人間、物事が思い通りに運ばない時ほど辛い。
思い通りに行かないときの苦しさは、誰もが経験している。
勉強してもテストの点が取れなかったり、たくさん素振りをしてもヒットが打てない。
だが、コンジュに取っては我々健常者とは非にならないくらい、思い通りに行かない苦しみを経験し、耐えている。
我々が普通にできることすら、彼女にとっては普通じゃない特別なこと。
何て酷な描写を見せるのだろうか。
あと、細かいところだけど、あだ名も良かった。
ジョンドゥはコンジュのことを「姫」と呼ぶ。
この、女性を立てているところが地味に心をくすぐられた。
コンジュがジョンドゥを好きになる理由に納得。
イ・チャンドンの映画は心を抉る映画が多い。
『シークレット・サンシャイン』では誘拐によって息子を失ったシングルマザーの、『バーニング 劇場版』では持つ者に対して持たない者の心を抉った。
本作も多いに抉らさせられた。
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■37セカンズ
■レスラー
■“隠れビッチ”やってました。
■ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー
オアシスの作品情報
■監督:イ・チャンドン
■出演者:ソル・ギョング ムン・ソリ
■Wikipedia:オアシス
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):90%
AUDIENCE SCORE(観客):84%
オアシスを見れる配信サイト
U-NEXT:○(見放題)
Hulu:○(見放題)
Amazonプライムビデオ:○(字幕・見放題)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2021年5月現在