■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★★☆4
「ゴリラに人権はないのか、人間至上主義の気持ち悪さ」
【小説】ゴリラ裁判の日のレビュー、批評、評価
2022年の第64回メフィスト賞を受賞した2023年3月15日刊行のエンタメ小説。
【あらすじ】カメルーンで生まれたニシローランドゴリラ、名前はローズ。メス、というよりも女性といった方がいいだろう。ローズは人間に匹敵する知能を持ち、言葉を理解する。手話を使って人間と「会話」もできる。カメルーンで、オスゴリラと恋もし、破れる。厳しい自然の掟に巻き込まれ、大切な人も失う。(Google Books引用)
私は小説家になるべく、小説を執筆している。
2024年現在、出版社から小説を出版し、プロの小説家になるための主なルートは2つ。
①WEB投稿小説サイトに投稿する
②出版社が公募する新人賞に応募する
X(旧Twitter)で投稿したショートショートの作品が取り上げられて出版に至るケースもあるが、前例は少なめ。
私が応募先を予定している新人賞の一つに、講談社が主催するメフィスト賞がある。
求められるジャンルはミステリー、ホラー、SF、といった総合的なエンタメとのこと。
過去に受賞した主な著者と作品は、舞城王太郎の『煙か土か食い物』。
森博嗣『すべてがFになる』。
辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』など。
名だたる著名人が並んでいて、名前を書く手が震える。
最近のメフィスト賞の受賞する作品の傾向を知りたいと思い、2023年の受賞作品である本作を読むに至った。
ゴリラにはどんなイメージがあるだろうか。
屈曲で、とんでもない怪力の持ち主だが、実際のゴリラは温厚で、争いを好まない平和な動物。
肉食ではなく、草食動物なので、根が平穏なのだろう。
本作は2016年5月28日に、実際に起きたハランベ事件がモチーフとなっている。
アメリカの動物園で、その日、ゴリラの生活エリア圏内に3歳の男の子が誤って侵入する。
200キロの巨漢を誇る、屈強なゴリラのハランベは、男の子を掴み引きづってしまう。
男の子を救うため、動物園側の下した決断は、射撃し、ハランベの命を奪うことだった。
結果としてハランベは命を落とす。
たまたま当時の様子を撮影していた観客がYouTubeにアップし、大きな論争を呼んだ。
ハランベ事件として世に知られる結果となった。
ハランベは確かに男の子を掴んだが、危害を加える意図はなかったなどの専門家の見解もある。
また、なぜ麻酔銃を使わなかったのか、も争点となっている。
話を小説に戻す。
本作は知能が高く、手話を用いて会話ができるゴリラのローズが主人公。
ハランベ事件のように、人間の子供を助けようしたローズの夫ゴリラが銃で命を奪われる。
そのため、ローズが動物園を起訴をし裁判をする、といった内容。
独創的な設定は読む前から魅力に感じていた。
ゴリラがコミュニケーションを取れるなんて、荒唐無稽にも思える。
だが、実際に起きた事件を自然に盛り込んだシナリオはリアリティーに溢れている。
結論から話すが、めちゃくちゃ面白かった。
物語の6割くらいは、裁判に至るまでのカメルーンの環境保護区のジャングルでのローズの生活が描かれる。
ゴリラ視点で、ジャングルで過ごす描写の臨場感が最高で、ついつい没頭して読まさせられる。
特にローズは成人の人間と同じくらいの知能を持ち、感情など、複雑に言語を用いて表現することができる。
だが、そんな彼女のローズもやっぱりゴリラ。
ゴリラの仲間を見かけては体が勝手に反応して全力でじゃれて遊ぶのだ。
このギャップが可愛くて、一気にローズを好きにさせられる。
また、色々あってローズはアメリカに行くことになるのだが、人間の女友達ができる。
ちょっとしたガールズトークもしていて、頭に浮かぶ映像がハチャメチャに愛しい。
個人的にはゴリラは、特に好きな動物だったので、感情移入がやたら捗った印象だった。
キャラクターも魅力的だった。
中盤、明らかにローズとは、相性の合わなそうなお金大好きの功利主義の人間が何人か出てくる。
彼らが非常にパワフルな性格の持ち主で良かった。
金が好きではありつつも、彼らなりに自分の仕事に対してプライドや信念を持っている。
だからこそ強靭な足腰があり、魅力的に映る。
本作のテーマ及び、結論も独特な内容で見応えがある。
クライマックスで展開される裁判シーンは、窮地にも思えるローズ側の弁護士がどう切り崩していくのかが気になり、ページをめくる手が加速する。
しかし、目指している賞の受賞作のレベルが高すぎて驚く。
負けずに自分の作品のクオリティを上げなければと奮い立たせられる。
多くの人に読んでもらいたい傑作だった。
いつかCGをたっぷり使って、Netflix辺りで映像化してもらいたい。
可愛らしいキャラが登場するおすすめはコチラ。
■プロジェクト・ヘイル・メアリー
コメント