映画『聖の青春』ネタバレなしの感想。難病に苦しみながらも将棋に人生を賭した村山聖の自伝作品

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■評価:★★★★☆4

「腹を括って好きなことに全力を注ぐって最高に楽しいし、幸せだ」

【映画】聖の青春のレビュー、批評、評価

『宇宙兄弟』『パラレルワールド・ラブストーリー』の森義隆監督による2016年11月19日公開のドラマ映画。
大崎善生著の2000年2月18日に刊行された将棋棋士・村山聖を描く自伝本を原作とする。

【あらすじ】難病に苦しみながらもひたすら名人を目指して人生の全てを将棋に捧げた天才棋士・村山聖のわずか29年という短くも壮絶な生涯を、家族や師匠との絆、羽生善治をはじめとするライバルたちとの熱き友情とともに綴った大崎善生の同名ベストセラー・ノンフィクションを松山ケンイチ主演で実写映画化した青春ドラマ。

本作は映画界隈の様々なメディアで取り挙げられている印象があった。
ようやく機会を得られたので、鑑賞するに至った。

スポーツにはチーム競技と個人競技の2種類に分けられる。
野球やバスケットボール、サッカーのようなチーム競技はいくら個人が上手くても、試合に勝てないケースも出てくる。
チームメイトとのコミュニケーションによる掛け合いが、勝利のために重要となる。
そのため試合に勝てれば、今までの練習の苦労を仲間たちと分かち合って喜べるのが魅力の一つ。

一方でボクシング、テニスのシングルスといった個人競技は孤独だ。
確かに一緒に練習する仲間はいるし、技術を教えてくれるコーチもいる。
だが、いざ試合に挑むと一人ぼっちで戦う必要がある。
チーム競技とは異なり、試合中の失敗を庇ってくれる仲間もいない。
故にチーム競技よりもメンタルが重要になる印象が強い。

私個人としては、チーム競技よりも個人競技を題材とした物語のほうがどちらかといえば好き。
私が目指している小説の新人賞の獲得も、仕事終わりや休日に孤独にパソコンと長時間、向き合う個人競技。
だから強く共感し、感情移入しやすい。

本作は将棋を題材とした作品となる。
同じく将棋もスポーツとして捉えると、個人競技に該当する。
本作を観て、なぜもっと早く視聴しなかったのかと嘆きたくなるくらい素晴らしい作品だった。

主人公の村山聖がめちゃくちゃ魅力的。
聖は小さい頃に不治の病にかかる。
四、五段程度の階段を登るだけでも息があがり、倒れる危険がある。
また「牛丼は吉野家のみ」などと、食へ拘りも強く、体型はちょっとした冷蔵庫のような大きさ。
印象的だったのは、聖は髪や爪をあまり切らないこと。
そのため周りには不潔、なんて思われている。
しかし、聖は大病を患っているからこそ、生やあの世に敏感だ。
「髪や爪にも命が宿っている」と、容易に切ることができずにいる。
聖らしいユニークなキャラ性が良かった。

また、あの世が身近に感じるって素晴らしいことだと思う。
健康体で、テロや戦争など縁のない平和な国に住む我々はあまりにあの世との距離が遠い。
そのために、ショート動画とか何の身にもならないジャンクなエンタメに時間を浪費する傾向にある。
あの世を近くに感じたほうが、より今を全力に生きられ、過ごす時間の濃度が濃くなる。
もちろん病気にはなりたくないけど、我々もあの世に関してはもっと身近に感じても良いと思う。
あの世を感じたいあなたには、『墜落遺体』というノンフィクション本はおすすめ。
あまりに多くの人が命を落とした事故の様子を生々しく描いているため、人生観がひっくり返る。
読む前と読んだ後では、時間の過ごし方はまるで異なる結果になる。

映画に話を戻すが、聖の少女漫画好き、という趣向も可愛くて良かった。
彼は見た目もよくないため、女性と付き合った経験がない。

有名な棋士、羽生名人と対局後、羽生とサシの飲むシーンがある。
そこで聖はやりたいことは2つある、と羽生に告白するシーンは良かったり
「羽生さん、僕はね、やりたいことが2つあるんです。将棋の名人になって将棋をやめてのんびり過ごすこと。もう一つは
恋愛をすること」

聖が命懸けで挑む将棋と恋愛が同列の価値を持っているというのがかわいい。
私も恋愛は大好きなので強く共感した。

また、病気になったことに対して卑屈でない強さも魅力的。
聖は羽生にこう告げる。
「今の病気になったから将棋を指すようになったかもしれない。今の病気にならなかったら、羽生さんと将棋を指すこともなかったかもしれない。我々はどうして将棋を選んだんでしょうね」

羽生も、名人になるくらいの根っからの将棋オタク。
羽生は直後、聖に対して唯一の同志、のような発言をする。
羽生も同じ熱量を持った同志がいるって嬉しかっただろうなと思う。

役者陣も良かった。
羽生の所作を徹底的にコピーして再現して見せた東出昌大は羽生そのものだった。
聖に扮する松山ケンイチもおそろしい体重増をやってのけ、本当に大変だったと思う。

将棋に興味がない人にもおすすめしたい。
対局中、局面が複雑化していき、事態が深くなるにつれて、二人が将棋盤に向けて前のめりになっていくさまも良かった。
漫画家の神様、手塚治虫も原稿にかじりつくようにして漫画を描いていた。

私も小説を書くことに前のめりになって、一切の手を抜かず、魂を込めて執筆活動を行いたい。
命を懸けて好きなことに力を注ぐって最高に楽しいし、幸せだ。

情熱を注ぐ素晴らしさを描いたおすすめ作品はコチラ。

■THE FIRST SLAM DUNK

聖の青春の作品情報

■監督:森義隆
■出演者:松山ケンイチ
東出昌大
リリー・フランキー
竹下景子
染谷将太
安田顕
柄本時生
北見敏之
筒井道隆
■Wikipedia:聖の青春

聖の青春を見れる配信サイト

Hulu:○(見放題)
Amazonプライムビデオ:○(有料)○(Blu-ray)、原作はコチラ、ドラマ版はコチラ
Netflix:-

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。休みの日は映画、読書を楽しみつつ、エンタメ小説を書いています。腹括って執筆しているので、応募した新人賞に落ちると絶望してます。

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