■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★★★5
「辺鄙な土地はあらゆる面で魅力に溢れる」
【小説】近畿地方のある場所についてのレビュー、批評、評価
『このホラーがすごい! 2024年版』で小田雅久仁著『禍』と共に1位に選出された、著者、背筋による2023年8月30日刊行のホラーミステリー小説。
【あらすじ】消息を絶った友人を探すため情報を求める「私」の語りと、雑誌を中心とした様々なメディアから抜粋された近畿地方の「ある場所」に関する文章を、『近畿地方のある場所について』というタイトルの作品としてまとめた体裁をとる。(wikipedia引用)
本作はもともとカクヨムという小説サイトで投稿された34話の小説が話題となり、書籍化された。
公開当時、作者はカクヨムならではの近況ノートというメモ的な機能やSNSと連動させ、読者参加型のインタラクティブ性を持たせ臨場感を演出した。
私はカクヨム版は読んだことはないし、リアルタイムの状況は知らないのだが、既存の構造を最大限に活用する試みは素晴らしいと思うし、作者の読者を楽しませようという気概が伝わってくる。
なお、書籍化にあたって、書籍でも楽しめるように編集されたとのこと。
小説版も評判になっていたし、原作者の背筋本人が物語に登場するフェイクドキュメンタリー方式のホラー・ミステリーとなる。
2023年に映画化され、話題となった『変な家』と同じ括りで、本作は多くのメディアに紹介されている。
フェイクドキュメンタリーは、ドキュメンタリータッチに作られたフィクションを指す。
リアリティーがあり、臨場感を強く打ち出す演出なので、ホラーのジャンルでよく用いられている。
本作は、構成が素晴らしかった。
近畿地方のとある場所にまつわるショートショートの短い不気味なエピソードが連なり、徐々に真相が解明されていく流れとなる。
またエピソードも背筋の知人である知人のオカルト編集者が直接取ったインタビューや、オカルト雑誌に掲載された短編、とある掲示板サイトの一連のやり取りなど、様々な媒体から成る。
じりじりと真実につながる情報が、様々な視点から小出しに提示されるので、ジラし方がすこぶる上手かった。
最初の3〜4話は、近畿地方のとある場所という共通点以外の繋がりがまるでない。
山から聞こえてくる謎の声に遭遇する林間学校に参加した中学生たち。
謎の赤い女が自宅マンションに現れ、被害被った男子大学生。
また首の座っていない少年が襲ってくるエピソードもある。
恐怖を与えてくる存在や、襲われる理由などに統一感がなく、読者の頭には疑問符が無限増殖する。
少しずつ、近畿地方のとある場所にまつわる、過去に発生した事件等が判明し、クライマックスに向けて怒涛の情報開示が行われ、一気に読まされてしまった。
読書スピードが大して速くない私が2日でサクッと読めたので、多くの人は1日で読み切る気がする。
全体の流れも面白いが、単独の話がそれぞれ魅力的で怖かった。
例えば、大学で論文を書く男子学生の話は好みだった。
ホラー好きの彼は卒業論文で、『怖さを伝えるときのジェスチャー』をテーマとし、様々な異なる属性を持つ協力者の被験者たちに、動画サイトではびこる『呪いのビデオ』と称されたくだらない動画を適当に1本選出して見せる。
実際に身体表現で怖さを伝えてもらい、違いを観察・分析・記録するというもの。
この設定自体、細かくて良く考えたなぁと思う。
何を目的にジェスチャーに着目したのかは良く分からないが、一風変わった論文のテーマで興味深い。
話を戻すが、どうやらの選定した呪いのビデオの映像の一部に近畿地方のある場所にまつわる、内容がまざっていた。
そして、被害が男子学生の身に及ぶ。
詳細は伏せるが、異様な現象で、本当に最悪だと思う。
しかもこの現象を、直接本人が観るのではなく、警察(第三者)から聞かされる、というのが個人的には恐怖を煽られた。
だって聞き伝だと、ネガティブな方に想像が働くだろう。
まだ直接見た方がマシだと思う。いや、ウソ。両方イヤ。
他には、2ちゃんねる的な掲示板サイトで、『今から心霊スポットに行ってくる』的な書き込みをした主の身に起きる話も良かった。
掲示板の書き込みだけで展開される話は他の映画作品にもある演出なのだが、本作のはリアリティーがあって背筋に冷たい物が走った。
こんな感じで読みながら思わず後ろを振り向いてしまうゾクゾクとさせてくれるいいホラー作品だった。
本作は小説というよりエッセイに近い。
小説は、視点人物の感情や置かれた状況を地の文で描写する。
本作はインタビュー内容をそのまま文章にしたものが多いので、かなり読みやすいと思う。
小説が苦手な人でもすぐに読めるのでおすすめしたい。
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■プロジェクト・ヘイル・メアリー
近畿地方のある場所についての作品情報
■著者:背筋
■Wikipedia:近畿地方のある場所について
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