小説『横浜駅SF』ネタバレなしの感想。本州を侵食し人類を支配する横浜駅に侵入する男を描く

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■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3

「横浜駅は生きている」

【小説】横浜駅SFのレビュー、批評、評価

柞刈湯葉による2016年12月24日に刊行されたSF小説。
カクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞を受賞。

【B】【あらすじ】日本は自己増殖する<横浜駅>に支配されていた。脳に埋め込んだSuikaで管理されるエキナカ社会。その外で廃棄物を頼りに暮らすヒロトは、エキナカを追放されたある男から人類の未来を担う“使命”を課され……(Amazon引用)

SF界隈では刊行当時、かなり話題になった作品。
賞を受賞した結果もそうなんだが、一番の理由は特異な設定が挙げられる。

人工構造物である横浜駅が有機物として日本の本州全体に増殖し、人類が抑圧支配された尖り倒したストーリーとなっている。

何かが増殖し、人類が絶滅の危機に瀕する物語は、2024年現在まで多く作られている。
本ブログの記事にした映画『エボリューション』では、宇宙から飛来した隕石に付着した微生物型の地球外生命体が増殖する話。
あるいは映画『ターミネーター』や『マトリックス』は人工知能が組み込まれた機械が機械を生み、人類は絶滅に危機に瀕する。

しかし本作は建造物であるはず横浜駅が日本を埋め尽くす荒唐無稽な設定。
既存作品とは着想やテーマが異なる鮮度が高い作品として捉えられ、更に内容も緻密に作り込まれているので、大きな話題となったのだろう。

ぶっ飛んだ内容にも関わらず、意外と駅に支配された世界観は入り込みやすかった。
横浜駅の名はエキナカと呼ばれる。
Suikaと呼ばれる脳内デバイスを持つ者だけが、エキナカで快適に過ごせる。
Suikaを購入できない貧民層は、駅の外のわずかな領域で、横浜駅から吐き出された廃棄物を拾って生活している。

Suikaを持たずに不正にエキナカに侵入したり、エキナカに住む連中に危害を加えたり、横浜駅の器物破損等を起こすと、自動改札と呼ばれる二足歩行のマシンに捉えられ、強制的に駅孔と呼ばれる場所を経由して、外へ追放される。
主人公はキセル同盟と呼ばれる横浜駅から人類の解放を目論むレジスタンスの依頼により、5日間がだけエキナカに入れる18きっぷと呼ばれるアイテムを用いて、キセル同盟のリーダーを救出を目指す。

主に首都圏や地方都市の多くの人は通勤や通学に電車を使う。
だからこそ、本作に出てくる造語の数々は大した説明いらずに受け入れられる。

自動改札やSuika、キセルなど、現実世界と本作の役割は似通って設定されているので、尚更、親近感を持って受け入れることができる。

奇抜な世界観なのに、読んでみると諸々、理にかなっており、冒頭からサクサクと読み進められた。

あと、横浜駅を増殖させるというクレイジー・アイデアを良く形にしようとしたと思う。
普通、どう表現したらいいか難しいが、長編で物語を考えるとき、もっとまともな設定を考える。
コメディ作品を作るならまだしも、荒唐無稽すぎる設定でシリアスや世界観で話を考えるなんて、ある意味、勇気がある。
だって、読者は笑っていいのか、真剣に捉えたらいいのかを迷うだような、と作者は危惧をするから。

実際に読むと、通信系の専門用語が多く登場する。
専門ではない私からすると、ただのイカれた設定だけではなく、緻密に世界観が作り込まれているように思えた。
SFとしての強度が高いので荒唐無稽さなんてすっかり忘れる。

個人的にキャラが微妙だった。
そもそも主人公に信念がないので、あまりに魅力には感じない。
横浜駅から人類を解放したい、といった目的はもちろんないし、エキナカに入る目的も人に頼まれただけ。
主人公はエキナカで多くのキャラと交流をするが、みんなパッとする特徴はない。
強いてあげるなら、主人公が最初に接触するJR北日本出身のやつのみ。
彼は秘密を多く抱えているので、彼の狙いを解明したく、強い関心を持っで読み進めた。

物語が中途半端に終わるのも気になる。
結局、キャラたちはどんな末路を辿ったのだろうか。
キャラの行く末がまるで描かれていないので、読後は不完全燃焼。
設定先行でキャラは後付けで作られ、ストーリーの奴隷として稼働している印象。

とはいえ、唯一無二の独創性には、小説を書く私としては多くの着想をいただいた。
綾辻行人が、島田荘司著の『斜め屋敷の殺人』から刺激を受けて『館シリーズ』を執筆したと語っている。
本作は第二の綾辻行人が生まれてもおかしくない先駆的で新しさを感じさせてくれた。

尖った世界観、設定のおすすめ作品はコチラ。

■ゴリラ裁判の日

横浜駅SFの作品情報

■著者:柞刈湯葉(いすかり ゆば)
■Wikipedia:横浜駅SF
■Amazon:こちら、漫画版はコチラ

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。休みの日は映画、読書を楽しみつつ、エンタメ小説を書いています。腹括って執筆しているので、応募した新人賞に落ちると絶望してます。

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