小説『でぃすぺる』ネタバレなしの感想。小学六年生の三人が町の七不思議の真相に迫るホラーミステリー

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■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★★☆4

「クラスメイトの女子たちと町の未解決事件に関わる謎解きに没頭する小学校時代を送りたかった」

【小説】でぃすぺるのレビュー、批評、評価

『屍人荘の殺人』シリーズの今村昌弘による2023念9月21日刊行のジュブナイル・ホラー・ミステリー小説。

【あらすじ】小学6年生の3人が、自身らが住む田舎町で発生した未解決の事件を解明するため、事件と関連性があると思われる『奥郷町の七不思議』の解明に挑む。

本作を知ったきっかけは、2024年6月13日に刊行されたムック本『このホラーがすごい! 2024年版』のランキング第5位に選出されていたから。

『大人のためのジュブナイル物』といったキャッチフレーズで、田舎町で発生した1人女性が命を奪われる未解決事件と関連性のある町の七不思議の謎を解明する、といったあらすじにやたらと興味を惹かれた。

結論から書くが、とにかく解像度が高く、読み応えが抜群だった。
主人公の小学6年生のユースケはオカルトが大好き。
クラスメイトたちにオカルト知識をひけらかして楽しんでもらうことに愉悦を感じるクリエイター気質の高い人物。
自らの欲求を満たすために、夏休み明けの二学期頭、教室の外に貼り出す壁新聞を制作できる掲示板係に立候補する。
もちろん、狙いは自身が最も興味のあるオカルトの記事を書くため。
すると、いつもは、学級委員を任される優等生女子のサツキも何故か掲示板係に手を挙げる。

ユースケらが住む奥郷町では、去年の今頃の時期に二十代の女性が命を奪われる事件が発生した。
まだ犯人は捕まっていない。
命を落とした女性の従姉妹であるサツキは、マリ姉と呼んで慕っていた。
サツキはマリ姉がダイイングメッセージの如くパソコンに残した奥郷町の七不思議を、オカルト大好きなユースケに協力を仰ぎ、解明を目論むために掲示板係に名乗り出た。

サツキは現実主義でオカルトは、全く信じていない。
そのため、科学では解明できない超常的な現象を信じるユースケと互いの七不思議の真相について推理をぶつけ合い、更には3人目の掲示板係であり、推理小説大好きな転校生のミナが議長として中立の立場に立って、どっちの論理が成立しているかを判定する、というコンセプトの壁新聞を作ろうとする。

小学生の知能レベルを超えてるやん、と心の中でツッコミまくった。

しかし、面白い。
まさに大人が楽しめるジュブナイルホラーミステリーといった具合に、ユースケらは様々な超常現象とも思える奇妙な現象に襲われ、謎の組織にも目をつけられ、時には協力してくれる大人に助けられ、七不思議の謎の解明を進めつつ、事件の真相に迫っていく。

不気味な現象も謎も何もかもが魅力的。
私も小学生の頃、女子達と一緒にこんな危険な冒険を楽しみたかったと、つくづく噛み締めた。

また小学生なだけあって制限も多い。
金はないし、夜遅くも出かけられない。
そのため、ユースケらは大人顔負けな知恵を働かせて、次々に立ちはだかる困難の乗り越えていく。
斜め上を行くアイディアを捻り出し、実行に移したりするので、ページを捲るのが楽しくて仕方ない。
次はどんな意表をつく困難に襲われ、どんな大胆な作戦で解決するのか、期待を煽られる。

映画『スタンド・バイ・ミー』的な要素も良かった。
スティーブン・キングの同名タイトル小説を原作とし、やたらと評価されている実写映画版のあらすじは性格がまるでバラバラの12才の4人組が、遺体探しの旅に出る青春物。

あらすじだけを見て一体何が面白いのかは伝わりづらい『スタント・バイ・ミー』は、線路伝いに延々と歩く長い道中、仲間内でしっとりと、今まで隠していた本音や悩みを吐露し合う。

旅の道中で少しづつ仲間同士との距離が縮まり、また将来歩むべき道を決心したりする。

最もモラトリアム性の、高い小学生の最後の夏の濃密な時間が、壮大な自然の中で描かれるので、私もとても好きな作品。
(面白さが伝わりづらい地味な作品で、私は三十代後半の3回目に鑑賞し、心を打たれた)

そんな名作のように、ユースケらも各々、家庭環境や未来についての悩みを抱えている。
七不思議の解明が進む過程で、ユースケらの葛藤が深刻化したり、解消されたりして関係性もじりじりと強固になっていく。
恐らく『スタンド・バイ・ミー』も、意識したであろう純度の高い青春感も見ごたえがあり、個人的にはすっかりハマった。

結末の持って行き方にも挑戦的で評価は別れるが、夏に読むにふさわしい1作。
子供というより大人向けなので、やはり『スタンドバイミー』

■登場人物一覧
木島悠介:主人公の小学生6年生、オカルト好き
波多野沙月:ユースケの同級生、優等生
畑美奈:ユースケの同級生で、転校生
波多野マリ:去年、命を落とした女性。波多野沙月のいとこ
ヒロ兄:ユースケの友達。警察
坂東景太郎:医者、坂東病院のせがれ
北森:居酒屋のアルバイト。店で客としてきた坂東を見た
作間寛人(さくまひろと):波多野マリと5年前から顔見知り
時任:マリ姉が通っていた大学の教授
小暮:マリ姉の大学の同級生
野呂:ユースケらの同級生。親戚に求める議員がいる
小埜上樹一:奥郷町の町長

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■自由研究には向かない殺人

でぃすぺるの作品情報

■著者:今村昌弘
■Wikipedia:今村昌弘
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。休みの日は映画、読書を楽しみつつ、エンタメ小説を書いています。腹括って執筆しているので、応募した新人賞に落ちると絶望してます。

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