■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★☆☆☆2
「信頼関係は幸せな人生を送るための大切なこと」
【小説】夏への扉のレビュー、批評、評価
『宇宙の戦士』『異星の客』『月は無慈悲な夜の女王』ロバート・A・ハインラインによる1956年発表のSF小説。
【あらすじ】ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか(Amazon引用)
本作の著者であるロバート・A・ハインラインは20世紀半ばから後半にかけて活躍した重鎮のハードSF小説家。
『われはロボット』『ファウンデーションシリーズ』のアイザック・アシモフ、『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』『宇宙のランデヴー』のアーサー・C・クラークと並んでSFビッグスリーなんて呼ばれており、SF小説ファンの中では知らない者はいない。
私はNetflixドラマにもなった劉慈欣著のSF超大作『三体』を読んで以降、SFにハマっており、ロバート・A・ハインラインの著作も拝読した。
2024年9月現在、アメリカで最も評価されているハインライン作品の『月は無慈悲な夜の女王』、Microsoft創業者ビル・ゲイツが絶賛する『異星の客』の2作のみ読んでいる。
この2作は本当に難しかった。
両作とも古典ハードSFであり、ぶっ飛んだ設定は興味深かった。
特に『月は無慈悲な夜の女王』はアニメ『機動戦士ガンダム』の元ネタにもなっているほど、多くのクリエイターに影響を与えた名作。
しかし、内容は複雑で、いかにも知能指数が突き抜けて高い人物が思考し、人類の先を描いた感じで、凡人の私には2割3割も面白さを理解できなかった。
本作『夏への扉』は、日本で最も人気のあるハインライン作品であり、なんと日本では2021年には山崎賢人主演で実写映画化された。
タイトルから、難解さは感じられなかったので気楽に読んでみた。
確かに評判の通り、めちゃくちゃステキな作品だった。
冒頭から、主人公の発明家の男、ダンは人間不信に陥っている。
どうやらベルとマイルズの2人の人物に裏切られたらしく、憎しみを持っている。
物語序盤は、本作の表紙にも姿を見せるダンが信頼を寄せる飼い猫のピートと仲良く過ごしながら、ベルとマイルズとのかつての交流が描かれる。
意外と猫の性格の描写がちゃんと描かれていて微笑ましかった。
こういうときに猫は近づいたら威嚇してくるから距離を取ったほうがいい、とか、様々なシチュエーションで猫と上手に交流するための猫取り扱い説明書を教えてくれる。
何となく、ハインラインは猫好きなのかなあと、思った。
好きじゃないと、出す必要がないくらい、本作ではピートが出てくる必然性はなかった。
とはいえ、物語のスパイスにはなってはいるので、出てきてくれて良かった。
古典ならではの展開の遅さはあった。
本作はタイムスリップものとして世間に認知されていると思う。
序盤から冷凍睡眠(コールドスリープ)の概念は出てくるが、タイムスリップとは本質が異なる。
2/3くらい進めてようやくタイムスリップについての言及される。
いくらなんでも遅すぎる。
面白くなる見せ所を引っ張って満を持して出てくるって感じなので、もっと序盤からタイムスリップして良いと思う。
タイムスリップしたあとの主人公は、どんな困難に襲われ、どう解決していくのか、を見せていったほうが盛り上がりポイントはもっと作れたと思う。
とはいえ、ストーリーは良くできているので許容はできる。
キャラが魅力的。
本作の敵であるベルとマイルズの忌々しさはもちろんだが、後半に出てくる変わった趣味を持つ弁護士夫婦は本当に良かった。
彼らこそ、主人公ダンにとってのサードマン(人生の分岐を助ける第三の人物)であり、非常に魅力的だった。
私もこんな大らかな人物との出会いがあったら良いなあと妄想させられた。
結果的に、ハインライン作品の中で一番好きな作品になった。
最後まで読み進めて心から良い物語だと思った。
古典らしい普遍的なテーマだけど、ステキな回答を描いてくれたし、何故日本で人気なのかが良く分かる。
古典の海外SF作品なので文体の癖はあり、読みづらさはあるけど、万人向けなので多くの人に勧めたい。
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