小説『君の顔では泣けない』ネタバレなしの感想。男子高校生が同級生の女子と入れ替わった15年の苦悩

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■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「長い入れ替わり生活の苦しみ」

【小説】君の顔では泣けないのレビュー、批評、評価

小説野性時代新人賞受賞作した君嶋彼方による2021年9月24日刊行の青春小説。

【あらすじ】高校1年生の坂平陸は、ある日突然クラスメイトの水村まなみと体が入れ替わってしまう。どうやら一緒にプールに落ちたことがきっかけのようだ。突然のことに驚き、戸惑いながらも入れ替わったことはお互いだけの秘密にしようと決めた2人。(Google Books引用)

自作の小説を添削してもらっているプロの小説家の先生から、キャラクターの心情描写や内面の深掘りが優れている本として本作を勧めてもらい、読むに至った。

本作はいわゆる入れ替わり設定となる。
新海誠監督による有名なアニメ映画『君の名は。』以前も以後も、多くの入れ替わりもののエンタメ作品は作られている。
女子高校生と、命を奪う危険な男が入れ替わるハリウッド映画『スイッチ』。
総理大臣の父と勉強ができないダメ息子が入れ替わる池井戸潤による小説『民王』など。

本作はそんなありふれた入れ替わりが、解除されなかったらどうなるのか?
をコンセプトに、男女の入れ替わり生活の十五年間が描かれる。

新しさを感じられる斬新なアイディアだと思った。
本来、入れ替わりものは、入れ替わる困難と向き合いつつ、お互いに協力しながら、何か大きな問題を解決し、2人の距離が縮まる流れのストーリーがほとんどのイメージ。

だが、本作では、高校生の2人が『君の名は。』や『民王』のような、大きな問題に直面することはない。
むしろもっと身近な『将来の不安』とか『パートナーとの関係性』といった、我々が身近に感じるような悩みを、入れ替わることで、よりハードに苛まれる2人(主に視点人物の男)が描かれる。

斬新なアイディアは、まるでテレビゲーム会社の任天堂を彷彿とさせられた。
ゲーム機を製作するテレビゲーム会社といえばプレイステーションを展開するSONYと、ニンテンドースイッチが有名な任天堂の主に2社が挙げられる。

SONYはどちらかというと、現在の最新技術を駆使した新しいゲーム体験を提案するゲーム会社の印象がある。
2016年という早い段階でVRゲームを提供しているのが象徴的。

一方で任天堂は、かつて任天堂に在籍していた横井軍平というクリエイターが提唱した『枯れた技術の水平思考』の考えを信念として実績を挙げている。
横井軍平は当時、普及していた電卓の技術を応用し、携帯ゲーム機『ゲームウォッチ』を開発して爆発的なヒットを叩き出した。
最新ではなく、使い古された古い技術をアイディア1つから全く新しい商品を生み出す考えこそ『枯れた技術の水平思考』だ。

本作はもう散々見てきてうんざりしている入れ替わりものを、新しい見せ方で臨場感たっぷりに描いてくれた。
男子高校生の坂平は、同じクラスの女子生徒で、あまり交流のなかった水村と体が入れ替わる。
初日から、水村の体になった坂平は、体が重くて吐き気が酷い。
水村の肉体は生理初日であり、あまりの辛さに学校を休む。

他にもソフトテニス部の顧問にセクハラを受けて苦しんだり、水村と、仲の良い女子生徒とも上手く交流が出来なかったり。
突然、性別が変わることによる異性の日常生活の厳しさが生々しく描かれる。
男女の体力の違いや体質など葛藤も描かれたりと、申し訳ないけど微笑ましい。
面白すぎて次々とページをめくらされた。

しかし、本作は中盤で個人的には見苦しい展開を迎える。
2人は入れ替わっても、心の性別までは入れ替わっていない。
終盤になっても坂平の心の声の第一人称は俺のまま。
女子の体になった坂平は、水村の元々いた彼氏とも交流しなければならない。
しかし坂平は辛い。
彼氏にキスを迫られると、思わず拒否してしまう。

つまり、坂平の恋愛対象は女性である。
だからこそ、中盤の展開は意味が分からないし、恋愛対象が女性である私からすると、あまりに生々しくて読むのが耐え難い。
中盤以降、あんなに興味深かった彼らの行く末への気持ちが離れていき、違和感が拭えないまま読み切ることになった。

あといくらなんでも、坂平の周りの人間が優しすぎる。
坂平は精神年齢が低い子供じみた男。
にもかかわらず、あまり否定や批判をされることが少ない。
特に水村は、坂平に対して優しすぎる。
もっと二人は対立しても自然だと思った。

添削者の先生の言う通り、内面描写は緻密で見ごたえはあった。
キャラやストーリーに関しては、あまり肯定的にはなかった。

人やキャラのリアルな内面描写が面白いおすすめはコチラ。

■トークサバイバー!シーズン3

■異常 (アノマリー)

君の顔では泣けないの作品情報

■著者:君嶋 彼方
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。休みの日は映画、読書を楽しみつつ、エンタメ小説を書いています。腹括って執筆しているので、応募した新人賞に落ちると絶望してます。

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