小説『BUTTER』ネタバレなしの感想。若くも美しくもない女に女性記者が魅了される

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■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「食べ物が人生に与える影響の大きさ」

【小説】BUTTERのレビュー、批評、評価

『ナイルパーチの女子会』『あいにくあんたのためじゃない』の柚木麻子による2017/4/21刊行の社会派小説。

【あらすじ】男たちから次々に金を奪った末、命を奪って逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。(Google Books引用)

2年前の2022年頃、職場の同僚女性と雑談していた際に、「BUTTERって小説が面白かった」とおすすめされ、ようやく読むに至った。

本作に関心を持った一番の理由は、2007年(平成19年)から2009年(平成21年)にかけて首都圏で発生した、多くの男性が命を奪われた実際の凶悪事件をモチーフとしているため。

犯人として逮捕された木嶋佳苗は、多くの金持ち男性を手玉に取り、自身に夢中にさせた挙げ句、大金をせしめて最後に手を掛けた。

2024年現在では、似たような事件として頂き女子のりりちゃんの事件をイメージするだろう。
若くて可愛らしいルックスのりりちゃんは、多くのおぢから金を巻き上げ、詐欺罪として実刑判決を受けている。
木嶋佳苗は極悪版りりちゃんのようなもの。

ただし、りりちゃんと木嶋佳苗には大きな違いがある。
それは木嶋佳苗は決して若くはないし、およそ男受けしないであろうルックスの持ち主。
かなり横に広い巨漢体型で、顔を平凡でお世辞にも美人とは言い難い。
ネットでもいくらでも木嶋佳苗の画像はアップされているので、関心があれば確認してほしい。
そんな彼女が多くのリッチなおじさんを手玉に取った現実が世間に衝撃を与えた。
特に一部の女性は、木嶋佳苗に強い関心を持つ結果となった。

私はコミュニケーションに興味があるタイプなので木嶋佳苗のコミュ力の高さにはずっと興味があった。
見た目に乏しい場合、異性を惹きつけるには、会話を始めとするコミュ力が悪魔的に高かったとしか思えないため。

本作は首都圏の事件及び、木嶋佳苗をモチーフとした食べ物小説である。

食べ物?
と、あなたは疑問に思うだろう。
本作は、犯罪小説ではなく、食べ物にスポットを当てキャラクターのキャラ性や成長を描いている。

冒頭からかなり興味深く読めた。
食にまるで興味がないガリガリ体型の女性記者、町田里佳は、取材のため、東京拘置所に収容されている梶井真奈子(木嶋佳苗モチーフのキャラ)に手紙を送り、面会を勝ち取る。

掴みどころのないふわふわした梶井真奈子に、「私と話をしたかったら食レポしなさい。熱々ご飯にバターを乗っけて醤油をかけて食べてみるのよ」と指令を下す。
食べ物大好きな梶井は、自由に食を楽しめる状況ではないので、代わりに里佳に食べさせ、感想を求めたのだ。

仕方なく、食に疎い里佳は、梶井に指定された高級バターをデパートで買って、バター醤油ご飯を食べた。
それはもうとんでもない美味で、まるで『落ちるような美味さ』だった。
落ちる味とは、梶井が表現したバターの味であり、里佳は体でその味を味わった。

以降、里佳は梶井と食にのめり込んでいく。といった内容。

梶井の要求がエスカレートしていくのが良かった。
里佳には恋人の誠がいるんだが、関係性に悩みを抱えていた。
どこか彼氏とは心が通じ合っていないもやもや感がありつつ、里佳もいい年だし、本音を言い合うエネルギーもないし、また別れる怖さも相まって、何となく今の中途半端な関係が持続していた。
梶井の要求によって、誠との関係にも影響が及び始める。
更には親友の伶子など、里佳の周りを巻き込んで様々なトラブルが引き起こされていく。

病的な異常者である梶井のキャラがいい。
リアルな事件を題材にしているせいか、ものすごく暴力的だったり、あるいはヒステリックのような漫画的な分かりやすいヤバさがない。
何かこいつヤバいっていう直感が刺激されるのような生々しさがある。
とはいえ、ヤバいところはちゃんと説明を入れてくれるので、読者は梶井に対してはちゃんと不快感を感じられる。

個人的には、もっと結末に向けて振り切って欲しかった。
そもそも食べ物小説という題材が保守的に感じた。
そんなに古い事件ではないし、被害者遺族も健在。
だから、エンタメ的なぶっ飛んだ展開は、作れなかったのだろう。
冒頭の期待とは裏腹にかなり小さくまとまった印象があり、読後感としては物足りなさが強い。

あんまり人には勧められない作品だった。
食べ物の表現は緻密だし、読んでいてお腹は空く。
でも、600ページという大長編なので尻窄みなシナリオは少し残念だった。

■登場人物一覧
町田里佳:週刊秀明の編集者
梶井真奈子:事件の加害者
伶子:里佳の大学時代の同級
内村有羽:秀明編集部のアルバイトの女子大生
藤村誠:里佳の恋人
本松忠信:梶井真奈子の最初の被害者
大安百恵:銀座の会員制クラブ、ラ・ヴィのママ。妊娠の噂がある
山村時夫:2013年11月、電車にはねられて亡くなった最後の被害者。大手シンクタンクに、勤める42歳。梶井とはお見合いサイトで知り合う。
水島依子:週刊秀明の名物記者だった。3年前に文芸営業部に
梶井雅子:梶井真奈子の母
小路杏菜:梶井真奈子の妹
秋山・酪農家。梶井真奈子の幼馴染
北村:里佳の後輩
横田史郎:川崎に住む中年男性
笹塚美由子:サロン・ド・ミユコ運営。夫婦で有名フレンチ店「バルザック」を経営している
山村鳩子:被害者遺族

実在の事件をモチーフとした作品のおすすめはコチラ。

■地面師たち

■ゴリラ裁判の日

BUTTERの作品情報

■著者:柚木麻子
■Wikipedia:柚木麻子
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。休みの日は映画、読書を楽しみつつ、エンタメ小説を書いています。腹括って執筆しているので、応募した新人賞に落ちると絶望してます。

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