■評価:★★★☆☆3
「怪物と呼ばれる人物の苦悩」
【映画】怪物のレビュー、批評、評価
『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』『万引き家族』『ベイビー・ブローカー』の是枝 裕和監督による 2023年6月2日公開のドラマ映画。
脚本は『花束みたいな恋をした』の坂元裕二。
【あらすじ】シングルマザーの女性は、息子の不可解な言動から担任教師に疑念を抱き、小学校へ事情を聞きに行く。だが、学校の対応に納得できず、彼女は次第にいら立ちを募らせていく。
世界三大国際映画祭の一つカンヌ国際映画祭で、本作は脚本賞を受賞している。
カンヌは芸術性に重きを置いた映画作品が評価される印象がある。
そのため、脚本賞を獲得した本作は社会的なテーマを内包した深い作品なのだろうと予想させられた。
また地味なドラマ作品であるにもかかわらず、カンヌの箔が付いていることも相まり、世間的な評判は非常に高かった。
うなぎのぼりに上がり続ける大きな期待を持って鑑賞に至った。
冒頭から、非常に良いテンポで矢継ぎ早にトラブルが描かれる。
商業ビルが火事で燃え盛り、消防による消化活動を、家のベランダから眺める主人公の小学生、湊は「担任の保利先生にお前の脳は豚の脳と言われた」と、隣にいる母の沙織に伝えたり。
湊は鼻や耳を怪我して学校から帰ってきたり。
沙織の職場のクリーニング屋で、客として来たママ友に「保利先生が先日、火事になったビルに入ってた女の子がいる夜のお店に行ってた」とか。
ある日の玄関、湊のスニーカーの片方だけがなかったり。
イジメを疑って沙織は学校に向かい、先生たちに状況説明等を乞う。
孫を事故で命を落とした校長は心身が不調で他の先生が用意した台本がないと、沙織と会話ができなかったり。
同席する保利先生も緊張感のある空気の中で突然、飴を食べ始めたり。
明らかに湊の通う学校は、何かがおかしい。
クラスメイト、あるいは保利先生からのイジメを連想させられる。
次々と発生するエピソードで、すぐに観客には各々のキャラクターの印象が定着していく。
さすがはベテラン監督・脚本家のコンビによる作品。
構成もすごみがある。
物語が3分の1くらい進み、台風の日、湊は唐突に姿を消す。
すると、モンスター教師の印象を持つ保利先生の視点に切り替わる。
保利先生の意表をつく裏の顔が明かされ、先の展開がまるで予想できなくなる、
本作は、火事のあった夜から台風の日までに起きた出来事が母沙織、保利先生、息子の湊の三人の視点で描かれる。
視点が変わるたびに、視点人物の新しい一面が描かれ、それは観客の心をダイナミックに動かす。
技巧がベテランすぎて笑える。
新人作家にはとても作れないような込み入った脚本だと思う。
しかし、私は、まるで好きになれなかった。
確かに、視点が変わるごとにとんでもない事実が明かされ、テーマも浮き彫りになってシリアス感が増していく。
でもさすがにどんでん返しを狙いすぎてるせいで、キャラクターが無茶苦茶なことになってる。
特に保利先生は意味がわからない。
どんな理由があろうとも、あの場で飴を食べるのは狂いすぎてる。
他にも、ネタバレなので伏せながら書くが、とあるキャラは新聞や週刊誌の記事にされるくらいとんでもない可哀想な状況に追い込まれる。
そこまでになる意味がわからない。
なぜ、そうなるように仕向けられたのか。
まともな大人がいれば、冷静になって調べて正しい状況把握ができたと思う。
あの場にまともな人は本当に誰もいなかったのだろうか。
これも『怪物』というタイトルしたせいで、無理くり大げさな展開に仕立てた印象。
またとある人物を怪物と呼ぶのは、さすがに違和感がある。
唯一良かったのは、第一章ではそこまで重要人物として描かれるなかった脇キャラの裏の顔が明かされ、メインキャラに格上げされる展開には意表を突かれた箇所くらい。
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■Pearl パール
■極悪女王
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■監督:是枝裕和
■脚本:坂元裕二
■出演者:安藤サクラ
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角田晃広
中村獅童
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■Wikipedia:怪物(ネタバレあり)
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):96%
AUDIENCE SCORE(観客):91%
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