小説『虚の伽藍』ネタバレなしの感想。腐敗した燈念寺派を正道に戻すため、若き僧侶があえて悪に身を投じる

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■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「信仰の向こう側は虚の伽藍」

【小説】虚の伽藍のレビュー、批評、評価

『機龍警察』シリーズ、『土漠の花』『欺す衆生』の月村了衛による2024年10月17日刊行の社会派ノワール小説。

【あらすじ】日本仏教の最大宗派・燈念寺派で弱者の救済を志す若き僧侶・志方凌玄。バブル期の京都を支配していたのは、暴力団、フィクサー、財界重鎮に市役所職員……古都の金脈に群がる魑魅魍魎だった。腐敗した燈念寺派を正道に戻すため、あえて悪に身を投じる凌玄だが、金にまみれた求道の果てに待っていたのは――。圧巻の社会派巨編。(Google Books引用)

ただいま、私が書いている小説のテーマ『●●の向こう側』の最高図書として、Xでおすすめいただいたので読むに至った。

『闇落ちなんて生ぬるい』
帯に描かれた強烈な惹句には心を掴まれる。
闇落ちといえば、聖人君主のような正義感に溢れるキャラクターが、何らかのきっかけにより悪の道へ踏み込む意味を指す。

例えば映画『ジョーカー』。
心優しいコメディアンを目指すアーサーが、悪の権化、ジョーカーへと変貌を遂げる作品。
漫画でも、2024年に連載が終了した人気漫画『呪術廻戦』の夏油傑や、『進撃の巨人』の主人公エレン・イエーガーなどが挙げられる。

果たして本作の主人公で僧侶の凌玄(りょうげん)は、どんな強烈な末路を迎えるのか。

全体的に魅力的なキャラクターで溢れていた。
舞台はバブルの昭和後期の京都。
主人公の凌玄(りょうげん)は日本における仏教の最大宗派、燈念寺派に所属する僧侶(お坊さん)。
冒頭で、凌玄は小さな仏堂が工事現場の人間に壊される瞬間を見届ける。
燈念寺派が夜久野にあるこの土地を売却するために、仏堂を壊して更地にする必要があり、凌玄は、上司の命令によって様子を伺いにきた。
すると、謎の老人が、工事を進める現場の人間に『これは巌斗上人(がんとしょうん)が籠もっていた大事なお堂で、粛仁(しゅくじん)様が夜久野の興隆を祈願してくれた大事なお堂だから壊さないでくれ』と、止めにかかっていた。
※巌斗上人は、恐らく燈念寺派の始祖的な人物だと思われる。
粛仁は、先代の総貫首。燈念寺派のトップという意味。

当然、現場の人間は無視して工事を進める。

だが、凌玄は、この良く分からない老人の言葉を真に受け、この土地について調べるようになる。

凌玄の燈念寺派に傾倒する純粋さを描くいい描写だった。
話はずれるがこの描写は、後に大きな伏線となる。

他にも、凌玄に近寄ってくる京都裏社会のフィクサー、和久良もいい。
彼は燈念寺派を強く信仰している。
悪人なのに敬虔な仏教徒というギャップが魅力的で、後にこのキャラクター性が最高に活きてくる。
個人的に和久良は特に印象的なキャラだった。
ネタバレになるので伏せるが、境遇も含めて酷く切なく、恵まれない。
個人的にはもっと、凌玄と和久良が親密になっていく流れが欲しかった。

凌玄と組むことになる反社組織、扇羽組の氷室も良かった。
反社なのに反社らしさがなく、インテリで経済のスペシャリスト。
金稼ぎ以外にも類稀な知性を発揮し、暴力ではなく、知恵で敵対組織と戦う軍師だ。
凌玄たちがどんなピンチに陥ろうと、氷室がでてくるとほぼ100%、クリティカルな解決案を提示し、物語がぐっと進む。
氷室の最強っぷりは、本作の見どころの1つ。

他にも悪いキャラがてんこ盛りで登場する、まさにアウトレイジ。
私は無知だったのだが、小説家の石田衣良曰く、バブル期の京都は、お坊さんと反社が牛耳っていたそう。
意外だが、当時の京都のお坊さんはケバケバしい金の袈裟を身に着け、いい女を連れて京都の街を練り歩いていたそう。
そんな京都のタブーを真正面から描いたのが本作とのこと。
お坊さんって表立って下品な人もいたんだなあと、初めて知る事実に驚いた。

ストーリーのテンポもいい。
純文学ではなく純度100%のエンタメ小説なので、サクサクと展開していくのが気持ちいい。
仏教の専門用語もたくさん出てくるけど、スピード感の、ある物語なので、人に勧めやすい。

本作はとんでもない結末を迎えるし、さすがに現実ではここまでひどいことは起きていないのだろう。
でもお坊さんが街を牛耳るなんて、個人的にはまるで無知だったので、鮮度を感じるいい物語体験だった。

しかし、何だか読み終わるとロスになる話だった。
何でこんなことになったんやろう。
凌玄も和久良も、何をやっとったんやろう。

悪人ばかり出てくる話だけど、心からの悪とは思い難い連中のバカな決断の堆積が最悪の結果を引き寄せる。

■登場人物一覧
・第一部
志方凌玄:25歳の新人僧侶、文書部員。主人公
小原空善:文書部長
南潮寛:総局公室室長、文書部長の上
和久良桟人(わくらさんじん):背広の男、フィクサー
最上:扇羽組若頭
瀧川海照(たちかわかいしょう):総局内事部。凌玄の大学時代の同期。僧侶よりモデルに向いている容姿、事のほか信仰心が厚め
暁常(ぎょうじょう):統合役員
堺創斤(そうきん):文書部長に昇格。すぐに持病のため降板
山田恆安(こうあん):文書部長に任命。
粕辺義三郎(かすべきさぶろう):株式会社カスベ興産 
氷室:最上の部下、京大経済学部出身。経済のプロフェッショナル
藪来晋之助:ヤブライ不動産
塚本号命:統合役員筆頭
小暮唐文:号命と昵懇の間柄
芝随啓:監査局長
堀口燕教(えんきょう):監査局特別部長
山之内弁游(べんゆう):監査局会計監査部長
恵那一比古(えなかずひこ):イエナハウス社長で船岡山墓園代表取締役
安念:広報部長
大豊佐登子:(おおとよさとこ)経律大学の学生で、叡光寺御住持のお嬢様とのこと
大豊宋達:叡光寺の住職。娘は佐登子
万代美緒(ばんたいみお):寺の娘、佐登子の友達
加山:平楽銀行の副頭取
坪口:更級金融京都支店の支店長
梅徳:京大名誉教授で京都国際福祉大学の理事長
飯降克雄(いぶりかつお):京都市役所の国際企画室長
須永辰美:市会議員
岡崎霖内:審理部長
塩杉天善:燈念寺派現総貫首
村崎爾倫:号命の後任
御厨(みくりや):東陣会の若頭補佐の御厨

・第二部
吉井弘休(こうきゅう):燈念寺派宗会議員
奥野新学:司会進行役を務める宗会事務局長
斉藤芳雁:宗会副議長
御前崎英慶(おまえざきえいけん):議長
金(キム):韓国犯罪組織の龍山派(よんさんぱ)の幹部
江瀬十蔵:旧日本陸軍の元将校で戦後は大手商社の幹部役員として活躍。経済界と深いつながりを持つフィクサーの一人。86歳。
松ヶ枝玉一郎:衆議院議員
桜淵範次郎(さくらぶちはんじろう):江瀬の懐刀。大和会議の世話役
渡辺幸念(こうねん):道倫寺の住職
半井良針(りょうしん):スパイ
本間垂鳴(すいめい):位剛院執行長
定岡舜心:本山の執行長。長らく病気療養中
蔵前智候:定岡舜心の同輩で、ともに故塩杉天善の薫陶を受けた愛弟子。
鄭万建(ちょんまんごん):総盟幹部の親族

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■BUTTER

虚の伽藍の作品情報

■著者:月村了衛
■Wikipedia:月村了衛
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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