■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「ネット怪談の不気味さ」
【小説】かわいそ笑のレビュー、批評、評価
『ここにひとつの□はこがある』『行方不明展』のホラー小説家、梨による2022年8月7日刊行のモキュメンタリーホラー小説。
2024年、日本における物語界隈はフェイクドキュメンタリー・ホラーが熱い年だった。
背筋さんの著作『近畿地方のとある場所について』は、二十以上のショートショートで構成される連作短編集。
読み進めていくうちに、関連がないと思われる話たちに繋がりが見え、徐々に核心に迫っていく流れはワクワクさせてくれた。
『変な間取り』は雨穴さんの著作でホラーというか、薄気味悪いフェイクドキュメンタリー・ミステリー。
軽い文体で読後感もあっさりしていて私は、そこまで好みではなかったが、間取り起点で展開していくシナリオは斬新で、目からウロコだった。
上記、2冊の著作と並んで語られる作品が、梨さんの著作のホラー小説『かわいそ(笑)』だ。
全5話で構成されている。
とあるセーラー服を着た女性が映る心霊写真の真相について、5つの視点で描かれる。
個人的には1話が一番面白かった。
1話のあらすじは以下。
2000年代初め。大学生の私は個人サイトを持ち、ネットで知り合った友人と無料で借りられる掲示板でやり取りすることが日課になっていた。当時、頻繁にやり取りしていた友人に 『りん』という方がいた。彼女と出会って半年後、彼女を含む他のネット仲間たちと一冊の同人誌を作る話が上がる。9月頃にやった即売会で初めてりんと顔合わせ。活発で気さくな女性だった。りんは近く住んでおり、リアルで遊ぶようになった。年の瀬が近くなってきた頃、彼女の家に遊びに行くことになる。彼女の部屋で一通り鍋をつっつき、会話を楽しむと、彼女はトイレのため、席を立つ。なんとなく部屋を見回してると作業机の脇のコピー機に白い紙の端がちらと見える。
主人公の私はこの紙を見る流れになるのだが、非常に気色悪いものが描かれている。
ノロイの言葉とか、攻撃的なフレーズが散りばめられているなど、直接的に何かあるわけではない。
だが不気味。
あまりに異様だし、私だったら速攻で部屋を出て走って逃げると思う。
こんな感じで1話ごと、異なる趣向の怖い話が展開されていく。
恐らく著者の梨さんは現在四十代半ばくらいで、2ちゃんねるが流行り始めた2000年代頭に、がっつりネットにはまってた世代なんだと思う。
本作は、1枚の心霊写真を巡る物語。
主に当時の2ちゃんねるのオカルト板とか怖い話系の掲示板で遭遇した写真、という設定で語られている。
私も2025年現在は四十代で、当時のインターネットの『アングラ』と呼ばれる界隈には興味があった。
アングラは都市伝説、オカルト、心霊、あるいはファイル共有ソフトとかエミュレーターなどの犯罪スレスレのネット情報など扱う界隈をアングラと説明する。
私は夜な夜な、家のパソコンで怪しいサイトにアクセスしていたのでノスタルジーに包まれた。
しかし、本作はあまり楽しくなかった。
1話、2話辺りまで割りとオーソドックスなフェイクドキュメンタリーホラーという感じで、いい感じに背筋を冷やしてくれる。
だが後半に進むにつれて、展開が良く分からなくなる。
分かりやすいシナリオは皆無。
不気味さを追求しすぎたせいなのか、ただ意味不明な展開を見せられるだけだった。
最後のオチも良く分からないし、不完全燃焼感は否めない。
期待外れ感は否めない。
冒頭で紹介した『近畿地方のとある場所について』『変な間取り』のが圧倒的におすすめ。
というか、分かりやすいエンタメの上記2作品とは異なる趣きで描かれている印象。
そのため、同じ括りで紹介されるのは違和感を覚える。
不条理な不気味さが好きなら読んでみてもいいと思う。
ちゃんと怖いホラー作品はコチラ。
■近畿地方のある場所について
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