■評価:★★★★☆4.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「芸人の世界は残酷で美しい」
【小説】火花のレビュー、批評、評価
『劇場』『人間』のお笑いコンビ・ピースの又吉直樹による2015年3月11日刊行のドラマ小説。
【あらすじ】売れない芸人の徳永は、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、師と仰ぐ。
神谷の伝記を書くことを乞われ、共に過ごす時間が増えるが、やがて二人は別の道を歩むことになる。
笑いとは何か、人間とは何かを描ききった又吉直樹のデビュー小説。(Amazon引用)
本作が芥川賞を受賞したのは2015年8月21日。
その頃に一度読んでいるので、約10年ぶりの再読となる。
再読理由としては、今私が書いている小説の参考図書として、小説を添削してくれている先生がおすすめしてくれたため。
初めて読んだ当時は、めちゃくちゃ面白かった印象がある。
私はエンタメ志向で、芥川賞を取るような純文学は、どこか馴染みづらいジャンル。
そのため火花も期待せずに読んだのだが、あまりに面白くて驚いたことを良く覚えてる。
今回の再読では、魅力を再認識したどころか、あまりのクオリティの高さに小説を書く立花として、作者の又吉さんの才能にひれ伏しそう。
主人公は、売れないお笑い芸人のコンビ、スパークスの徳永。
徳永は、熱海の花火大会の営業で、尖りちらかした芸を披露したお笑い芸人のコンビ、あほんだらの神谷に心を奪われ、弟子入り志願するところから物語は始まる。
神谷のコンビ名が最高。
親父から良く言われていたから、と神谷は軽いノリで『あほんだら』とつけたらしいが、最高のネーミングだと思うし、愛しさすら覚えるヤケクソ感がいい。
語感もいいし、どこかパンクな精神も宿っているので、神谷らしさを体現している。
私が学生時代に好きだったバンド、GOINGSTEADY(現銀杏BOYZ)のアルバムに入っていた曲『アホンダラ行進曲』より連想。
本作は誰もが文句を言わないだろう神谷のキャラクターのユニークさに溢れた小説。
神谷は笑いに対してストイックで、常に笑いのことで頭がいっぱい。
そのため、徳永か神谷と交流するシーンは、ご飯を食べているときだろうと、散歩しているときだろうと、いつ何時、ボケやツッコミで埋め尽くされてる。
また、さすがはお笑い芸人が書いているだけあって、ボケのレベルが高い。
全ボケ笑えるので、それだけで本作は楽しめる。
神谷は人に媚びへつらうなんかできない。
自らの信念に基づいた笑いを突き詰めようとするストイックな男。
その不器用さが、時には大切なものも手からこぼしてしまうことも少なくない。
中盤で胸が痛いシーンがあり、心からページを戻したいと思った。
でも物語は進み続けるしかない。
神谷と一緒に苦痛を噛み締め、現実を受け入れ、私も傷ついた心を見て見ぬふりをしてページをめくった。
しかし、ここまで神谷に感情移入させる又吉の技量がすごい。
神谷の笑いに対する確固たる信念、繊細な性格を、又吉は緻密な描写で生々しくと書き上げてくれる。
神谷がどんな人間なのか、手に取ってわかるように読者に伝えてくれる。
だから神谷が取る一挙手一投足を食い入るように見たくなる。
ストーリーも最高だった。
基本的には連作短編小説って感じで、神谷と徳永の交流を10編くらいに渡って描く。
どのエピソードも神谷らしい笑いにあふれてて楽しい。
個人的にはコーデュロイパンツの話が、神谷の哀愁を滑稽に描かれていて好き。
何より最高なのはクライマックス。
詳細はネタバレになるので伏せるが笑いを愛し、笑いを追求した芸人の向こう側が見れる。
『マジかよ』と思わず声が漏れること必至。
エンタメと純文学のいいとこ取りしたような素晴らしいバランスの最高の小説。
短いページ数だが、やたらと緻密に描かれてるので完全な読者初心者は難しいかも知れない。
でも本を読み慣れていて、まだ未読の人は絶対に読むべき傑作。
芥川賞取るのも納得。
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