小説『イノセント・デイズ』ネタバレなしの感想。放火で極刑宣告された女性の真実を描く

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■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「裏側の真実の残酷さ」

【小説】イノセント・デイズのレビュー、批評、評価

『ザ・ロイヤルファミリー』の早見和真による2014年8月20日刊行のドラマ小説。

【あらすじ】田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子の命を奪った罪で、彼女は極刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。(Google Books引用)

私は小説を執筆しており、現在、書いている作品のテーマ『●●の向こう側』の参考図書として、添削者の先生が勧めてくれたので読むに至った。

冒頭、田中幸乃という女性が刑務所の中でたそがれている。
どうやら死刑囚らしい。 
運命の日。
刑の執行日を迎え、幸乃は安堵する。
命を奪われる日を待ちわびていたかのような印象的なシーンから物語は始まる。

本作は幸乃が、なぜ処刑されるに至るのかを描く回想がメインの話。
幸乃がまだ生まれてすらいない、幸乃の母親ヒカルの高校時代までさかのぼる。

ヒカルは最初は堕ろそうかと思った子を、医師と相談した結果、強い覚悟を持って産む決意をする。
母の強い葛藤から生まれた幸乃は、愛情をたっぷり受けた幸せな家庭で育つ。
母と同じ、てんかんのようなやっかいな持病を抱えているが、それでも毎日、笑顔で溢れた生活を噛み締めていた。

幸乃の子供時代のエピソードを読む限り、将来的に凶悪犯として刑務所に追いやられるキャラクターとの乖離が激しく、先の展開が予想できない。

読み進めると、理不尽な現実に翻弄されたただただ悲しい話だった。

個人的には不幸でしかない物語は得意ではない。
何のために物語を読んだのかが良く分からないため。
例えば映画『聖なる鹿殺し』のような裁かれるべきキャラが裁かれて不幸になるのは爽快感があっていい。
だが、本作の幸乃はそういうキャラクターじゃない。
ただただ胸が痛いだけのストーリーは、読み終わってももどかしさが尾を引く。

私が物語に求める読後感とはまるで正反対の思想で作られた作品なので、好みではなかった。
また、ちょくちょくキレイごとで塗り固めた鼻につくシーンが多くて苦手だった。
『娼年』の石田衣良作品にも通ずるんだけど、作者はロマンチストでキレイなものが好きなんだと思う。

私はどちらかというとキレイなものの裏側に心が動かされるタイプなので、作者との感性が不一致だった。

本作はキャラクターの不幸を描く、
というよりかは、メディア等で真実として語られる内容の裏側に迫ることが作者の描きたいことであり、メインテーマだろう。
だがいかんせん悲しいだけの話になっている。
報われるべき人物は報われて欲しいと願うばかり。
私がこう思うのは、小説家になりたいということを始めとする、多くの欲しいものを手に入れられずにいるからかもしれない。

とはいえ、緻密に積み重ねられた解像度の高いエピソードは素晴らしかった。
最後のページに書き連ねてある参考資料のおびただしい数に納得できるクオリティの高さには読後の満足感の助けとなる。

確かに私の求める『●●の向こう側』のテーマを抑えた作品だった。
好みは別れる内容なので、不幸で重たい話が好きな人にはおすすめしたい。

異常な決断を下したキャラクターが魅力的な作品はコチラ。

■火花

■虚の伽藍

イノセント・デイズの作品情報

■著者:早見和真
■Wikipedia:イノセント・デイズ
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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