■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4
「霞が関労働の過酷さ」
【小説】あしたの官僚のレビュー、批評、評価
『眼球堂の殺人~The Book~』の周木律による2021年3月17日刊行の職業小説。
【あらすじ】厚生労働省キャリア技官の松瀬は、個性的過ぎる部下や同僚の尻拭いに奔走しながら、国会議員、関係省庁との板挟みに苦悶する日々を送っていた。そこに突如、新潟県で謎の公害病が発生。孤立無援のまま原因究明に追われるが、ある謀略により「忖度官僚」として国民の非難の的となり……。切実すぎる新時代の官僚小説。
官僚について知りたいと思い、『官僚 小説』でGoogle検索すると、2冊の小説がヒットした。
一冊目の城山三郎著の『官僚の夏』は、1975年に刊行された古い小説。
1955年頃から1973年頃までの高度経済成長期の時代が舞台となっており、実在した官僚が主人公のモデルとされている
世代ではない私も名前を聞いたことがあるくらい有名な作品で、2009年にはTBSの日曜劇場の枠で、舞台を現代に置き換えてドラマ化もされている。
今回、読了した『あしたの官僚』は、『官僚の夏』に感銘を受けた作者の周木律による現代を舞台にした厚生労働省に務める主人公の奮闘劇。
2021年に刊行されており、コロナモチーフのような事件を主軸に話は展開されていく。
より現代に近い設定が良いと思ったので、本作を手に取った。
若手の官僚である松瀬は『官僚の夏』を読み、官僚のかっこ良さに憧れて、田舎から上京していた。
仕事をしない部下や高圧的な上司に辟易し、国民からの苦情電話に対応にも時間を奪われ、現実に厳しさに消耗させられる日々を送る。
そんな中、新潟県の町で奇病が発生し、担当となった松瀬は関係各所からもみくちゃにされがらも奮闘していく。
どこまでがリアルかは分からないが、官僚の過酷さが伝わってくる。
苦情の電話に関して、民間企業は利益を得ないと会社の存続ができないので外注したり、あるいはお問い合わせフォームはメールしかない、といった対応をする。
だが国の窓口である霞が関では苦情の電話を受けたら聞き続けなければならない。
国会待機などの事情で、残業は常習化しており、月200時間オーバーは当たり前。
仮眠室もないので、執務室で寝泊まりは良くある話。
残業代も30時間程度までしかでず、計算すると国が設定する最低賃金すらも下回る。
そのため、恋人がいても満足に時間を作れず、関係が崩れることもしばしば。
官僚仕事の大変さが具体的なエピソードとして描かれる。
あまりの日常の激務に、みるみるうちに松瀬に感情移入していく。
そんな中で、新潟県佐間市で発生した謎の病、佐間病の対策についても担当となり、多くの関係者から難しい要求をされたり、糾弾されたりと、追い込まれていく。
官僚の働く様子が丁寧に描いているのは良かった。
また、たびたび霞が関用語が出てくるのだが、その都度、説明が入るのも親切で嬉しい。
知識欲が満たされるので、かなり興味深く読めたし、読了後は政治に詳しくなれた気がする。
全体的には良い物語だったけど、ストーリーがイマイチな印象。
あまりに追い込まれ過ぎて、松瀬が平常心を守ってるのに違和感を覚えた。
確かに部下に汚い言葉を吐いたりはするんだが、本当にそれだけで収まるとも思えない。
普通の人間なら、ある日、プツンとキレて包丁でも持って暴れ回ってもおかしくなさそう。
また、落ちきった松瀬の這い上がるエピソードがあまりに古典的すぎる。
前に読んだ脚本の指南書では「この方法はあまりに古臭いのでやってはいけません」と書かれている手法そのまま使っていたので、何だか笑えた。
シナリオ面に関しては「池井戸潤だったらどんな話にするのかなあ」とついつい考えた。
知識にはなる情報量の多い作品なので、政治に関心のある人は読んでも良いと思う。
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