■評価:★★★★★5
■読みやすさ:★★★★☆4
「親を選べない地獄」
【ノンフィクション本】母という呪縛 娘という牢獄のレビュー、批評、評価
2018年1月に発生した滋賀医科大学生事件の加害者女性の半生が描かれる。
齊藤彩著、2022年12月16日刊行のノンフィクション本。
【あらすじ】深夜3時42分。母の命を奪った娘は、ツイッターに、「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した。18文字の投稿は、その意味するところを誰にも悟られないまま、放置されていた。母と娘――20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に、何があったのか。公判を取材しつづけた女性記者が、拘置所のあかりと面会を重ね、刑務所移送後も膨大な量の往復書簡を交わすことによって紡ぎだす真実の物語。
『出版区』というYouTubeのチャンネルがある。
テレビタレントから著名なビジネスマンまで、様々なジャンルの読書家に一万円を渡して購入する本を選んでもらい、頭の中身を覗く企画の動画をメインにアップしている。
私は、元々テレビっ子でバラエティ番組が大好物。
コンプラギリギリを攻める際どい番組が好みで、『水曜日のダウンタウン』は毎週、正座して視聴させていただいている。
代表格の一つであるイカれた番組『ゴッドタン』のプロデューサー兼演出の佐久間さんが、出版区の動画に出演し、本作をおすすめしていたので読むに至った。
該当の動画は下記。
本作は2018年1月に発生した『滋賀医科大学生事件』の加害者の女性に著者である記者がインタビューし、書籍化したノンフィクションである。
冒頭、拘置所に収容されている加害者の髙崎あかりと面会するところから始まる。
拘置所のヒリヒリとした空気感の描写が緻密で、あかりが登場するまで張り詰めた緊張が一文字一文字から漂ってくる。
タイトルから察するに、毒親の命を奪った女性、という印象がある。
親にも命を奪われる理由があるんだろうなと推測できるが、人の命を奪う凶行に走った人物なので、本能が勝手に構える。
また、あかりは犯行直後にTwitterで『モンスターを倒した。やっと安心できる』といった旨をつぶやいている。
こんなの、警察に見つかったらOUTではないだろうか。
なぜ、犯人だと思われるようなリスクを晒したのか。
いざ、現れたあかりは、イメージとは真逆の品格のある女性だった。
蚊をも叩けない心の優しそうな雰囲気で、一気に気が抜ける。
何故、彼女が母に刃を突きつけたのか、凶行に至った理由が徐々に徐々に明るみなる。
爪が甘いツイートの説明についても、納得出来る内容だった。
あかりが3歳の頃、「お母さん大好き」と好意を表明するくらい、母に懐いていた。
だが、この頃から早くも母は悪の本性を出し始める。
母は病的なまでの選民思想を持っている。
自分たちは優れた人種と信じて疑わない、といった偏ったナチスのような偏った思想。
あかりの住む滋賀の郊外にある公立中学を見ると「バカ学校」と、ヘルメットにジャージ姿の生徒に対しては「みっともない」と吐きつける。
公立の学校に通う生徒はバカと、偏見丸だしのイカれた母親である。
頭の中で密かに思うならまだしも、娘の前で平気で吐ける無神経さは頭がイかれてる。
早々に、あかりの地獄の生活は幕を開ける。
あかりはこの頃、体の弱い母を労って「私がお医者さんになってお母さんを治してあげる」の宣言する。
そして、母と二人三脚で医者になるための勉強漬けの日々となる。
母から勉強を教わり、正解出来ないと罵られる。
小学校のテストでは90点以上がマスト。
89点以下を取るようなら「どうして分からないの?」「あかちゃんは本当にバカだね!」と責め立てられる。
言葉の暴力は可愛いもの。
徐々にエスカレートしていく母が与える罰は常軌を逸しており、読み進めるのも苦痛になるほど。
特にしんどかったのは、ペットを虐待するようなシーン。
髙崎家では、ポン太と銀次の2匹の犬が飼われている。
あかりはポン太を特にかわいがっていて、母は銀次を可愛がっている。
ある時、あかりの帰りが遅くなるようなシーンがある。
すると、母から「ポン太がわんわん吠えてやかましいので、家から追い出します」とメールで送られてくる。
かわいそう過ぎて胸がキリキリと傷んだ。
親にも関わらず、平気で弱い者虐めをする感性が理解できない。
完全なサイコパスだし、親ガチャに失敗した典型例。
本作はすでに母が他界しているため、あかりのみの視点で描かれる。
母からの視点がない以上、あかりの言い分のみで構成された本なので対等ではない。
にしても、実際に母のモンスター的な悪に満ちたメールは多く残っている。
人の命を奪う行為は決して許されない。
しかしあかりが、救われるには命を奪う以上の正解はあったのだろうか。
母と私、どちらかが死なないと終わらなかった。
そんなことをあかりが語っており、納得するほかない。
私も母が毒親だと思っていたが、ミツバチ程度の可愛い毒であったと痛感させられる。
親を選べない不幸な子供の最悪な例の一つだった。
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