小説『刺青の男』ネタバレなしの感想。男の刺青が動き出し18の物語を演ずる

SF

■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★☆☆3

「生きる活路は地球外にある」

【小説】刺青の男のレビュー、批評、評価

『華氏451度』、『火星年代記』のレイ・ブラッドベリによる1951年刊行のSF小説短編集。

【あらすじ】暑い日にもかかわらず、ウールのシャツのボタンを胸元から手首まできっちりとかけた大男。彼は全身に彫った18の刺青を、18の秘密の物語を隠していた。夜、月あかりを浴びると刺青の絵は動きはじめ、18の物語を演じはじめる……刺青の男とは、重苦しい過去とさらに重苦しいかもしれぬ未来とを一身に背負った人類の姿だった。宇宙旅行、原水爆、宗教、人種問題などをテーマに、幻想と詩情に満ちた、美しくも異様な短篇集!(Amazon引用)

『新世紀エヴァンゲリオン』などのアニメ制作会社ガイナックスの創始者で、アニメ、映画などの評論をYouTubeなどで行う岡田斗司夫が、過去におすすめのSF小説として本作を挙げていた情報を得て、読むに至った。

本作は主人公が出会った刺青の男の持つ刺青が18の物語を語る設定。
18篇からなる短編集となっている。
1話がだいたい20ページ前後なので、かなり読みやすい。
一篇読んでも「次もそのまま読もうかな」と、次へ次へと進めさせられる。

舞台は地球、宇宙空間、火星など、さまざま。
一貫して描かれているのは、地球ではどうやら大規模な戦争が行われているらしく、人類は地球の外に希望を見出している様子が描かれる。

本作が刊行されたのが第2次世界大戦が終わり、冷戦最中の1951年。
アメリカとソ連の宇宙開発競争が1961年5月に行われているので、刊行当時のアメリカでは、すでに宇宙に目が向けられていたのだろう。
世界大戦が終わってもソ連と冷戦が始まったり、戦争に辟易する著者の想いから本作は書き上げられたのかもしれない。

本作は1つの話が、短いので物足りなさは否めない。
「この先が読みたいんだよなあ」と、先の展開を渇望させる話もいくつかあった。
個人的には長編が好きであり、短編集が苦手な主な理由はここにある。
長編小説は主人公の変化をひとつの話を余すことなく描いてくれるので、心地良い読後感に浸れるのが良い。

とはいえ印象的な話も、いつくかあったので感想を書いていきたい。
『火の玉』というタイトルの話はかなり印象的だった。
火星に着いた神父の主人公が、火の玉状の火星人と遭遇する。

その前に主人公は罪について語るシーンがある。
人類は腕があるから人を締める暴力、性暴力の罪が生まれる。
アメーバは分裂生殖をするから、上記の罪がない。

火の玉は、昔は人の形をしていたと語る。
つまり、人の進化の形が腕を持たない火である。
暴力等による諍いすらもなくなる究極的な進化の形。
ユニークな発想で印象に残る。

少し話が、ズレるが最近、進化がテーマの作品である『幼年期の終り』という小説を読んだ。
他にも『2001年宇宙の旅』など、進化をテーマにした話がある。
進化は面白し興味深い。
でも何で進化をテーマにするのか、また人はなぜ進化にワクワクさせられるのかを考えた。

進化は、生存戦略の重要な1つだからだろう。
というのも太陽は約五十億年後に核分裂を終えて消滅すると言われている。
この事実を聞いて物凄くショックだった。
たしかに気も遠くなる先の話で私は、当事者になり得ない。
でも五十億年後には人類の滅亡が決まっている。
そう考えると絶望的な気持ちになる。

生き延びる術はいくつかある。
宇宙の外に出て住める星を探したり、あるいは人工地球のような物を作るか。
あるいは本作のように火の玉のような進化を遂げることで、滅亡から逃れられるのかもしれない。
色々と楽しい妄想が捗る話だった。

他にも、自分そっくりのアンドロイドを作る話など、もっとエンタメ的な楽しみやすい話もあったりなど、そこそこ充実した読書体験となった。

地球外を舞台とするおすすめ作品はコチラ。

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刺青の男の作品情報

■著者:レイ・ブラッドベリ
■Wikipedia:刺青の男(ネタバレあり)
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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