■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★★☆4.5
「逃げるが勝ち」
【小説】六畳間のピアノマンのレビュー、批評、評価
安藤祐介による2019年3月30日刊行のドラマ小説。
本作は連作短編集。
大まかなあらすじは、ブラック企業に勤める1人の新卒の新入社員があまりの過酷さから心を病む。
結果、悲しい事件が発生する。
その事件は、人生の岐路に悩むいくつかの人物に影響を与える話。
影響下にある人物たちの各々の視点で描かれる。
構造としては『成瀬は天下を取りに行く』を彷彿とさせる。
大人がやめてしまったちょっとバカなことや無謀なことに、中学生の女の子、成瀬は結果や周りの目を顧みず、躊躇なくチャレンジしていく青春物語。
主に成瀬の周りのキャラが視点となる連作短編集。
成瀬はあまりに衝動のままに行動するので、称賛されることもあれば拒否反応を示す連中もいる。
成瀬の周りにいる多くの我々一般人的なキャラクターたちは、成瀬の影響を受け、その人物にとって重要な変化を得る。
物語は、キャラクターの変化・成長を描くもの。
くすぶった人物が美しく変貌を遂げる様は気持ち良い。
話を本作に戻す。
結論、そんなにハマなかった。
でも多くのキャラクターが殻を破り、新しい自分を獲得する姿は読んでいて爽快だった。
最初の話のあらすじは、以下の通り。
『第1章 無敵社員』
【あらすじ】ブラック企業、株式会社ハッピーインベストメントの1日は長い。日中は投資用マンションの電話営業及び法人への飛び込み営業。民家への飛び込み営業はあえて深夜と早朝に行われる。通称『夜討ち朝駆け作戦』。専務取締役クソ営業本部長の上河内が俺たちのために企画してくださった新入社員強化プロジェクト。営業マンは会社のルールによりみんなGPS付きの携帯電話を自腹で購入。管理職の人間は俺たちの居場所や行動を常にチェックできる。俺(大友)、夏野、村沢の新入社員3人は、息抜きで居酒屋『酒樽屋』に向かう。深夜2時半過ぎ。入社以来3ヶ月間で休日はゼロ。入社以来、居酒屋で飲むのは初めてだった。生ビールを飲む。「今まで生きてきた中で一番うまい」と、3人は感動する。その記憶は7年経った今でも変わらない。
3人の新入社員は、悪魔のような上司、上河内の命令によって、深夜まで投資用のマンションやウォーターを売るために営業をかけていた。
ブラック企業のハードな描写が無茶苦茶すぎて面白い。
個人宅への新規の飛び込み営業をあえて寝ている時間帯に行うとか、頭がいかれてる。
特定商取引法では明確に営業NGな時間帯は存在しないらしいので、本当にやっている会社はあるのかもしれない。
社員の持つ携帯にGPSが取り付けられているのは、もはや束縛する恋人である。
プリンターの紙を始めとする備品類がすべて自腹なのも気狂いとしか思えないが、自由な時間を剥奪する会社に属していたら、ほんの1週間で精神が壊れるだろう。
だが、彼らは3年、働こうと目標を立てているのだ。
新卒で入った会社をすぐに辞めると、転職に不利になるとの発想から。
彼らは果たして地獄の3年間を無事、乗り越えることができるのか。
本作は連作ではあるが短編集であり、主人公は毎回変わる。
そのため、短編1本ずつ、感想を書いて行こうと思ったが、全体的に軽い読み物だったので、モチベーションが上がらなかった。
軽さの理由は簡単で、キャラクターに生々しさがない。
最近、読んだ又吉直樹の『火花』や、西村賢太の『小銭をかぞえる』に出てくる主人公を始めとするメインキャラは、作り込みがえぐい。
キャラの一挙手一投足、すべての理由を説明できるくらいキャラを丁寧に造形しているため、実在感が突き抜けている。
本作はエンタメ小説だけど、いくらなんでもキャラクターの言動がキレイすぎる。
キレイではない思考を持ち、変わった行動を取るキャラクターはいなかったのだろうか。
だいぶあっさり作られた話の印象があり、物語に入り込めなかった。
ストーリーも変に感動を押し付けるような作りになっていて、読後感は軽く、まるで好みではなかった。
とはいえ、本作のタイトルとも関わりのある本編に頻繁に名前が出てくるビリー・ジョエルの『ピアノマン』の曲は良かった。
テレビか何かで耳にしたことのある曲で、しんみりする切ないメロディは日本人受けする聴き心地の良さがあった。
個人的にブラック起業の描写の参考になればと思って読んだだけたなので、何か特別な理由がある人でない限りはおすすめはしづらい作品。
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■狭小住宅
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