小説『自由研究には向かない殺人』ネタバレなしの感想。5年前の少女失踪事件の真相を自由研究で暴く

ミステリー
Version 1.0.0

■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「自由研究の面白さ」

【小説】自由研究には向かない殺人のレビュー、批評、評価

2021年8月24日刊行のホリー・ジャクソン著による青春ミステリー小説。

【あらすじ】高校生のピップは自由研究で、5年前に自分の住む町で起きた17歳の少女の失踪事件を調べている。交際相手の少年が彼女を殺害し、自殺したとされていた。その少年と親しかったピップは、彼が犯人だとは信じられず、無実を証明するために、自由研究を口実に警察や新聞記者、関係者たちにインタビューをはじめる。ところが、身近な人物が次々と容疑者として浮かんできてしまい……。

2022年の本屋大賞で2位となった作品。
元々、おすすめミステリー的なネット記事を見て気になっていた。
この度、Kindleでサマーセールにかかっていたので読むこととなった。
そもそも本作が気になった理由は、設定の面白さにある。
主人公ピップは女子高生。
ピップが住む街では、5年前に、主人公が現在通っている高校のマドンナ的存在だった美少女アンディが失踪していた。
翌週にはアンディの命を奪った、と自らの罪を告白した遺書を残し、アンディの恋人だった男子生徒サルが遺体となって発見された。
ピップは色々あって信頼を置いていた親友のサルが人の命を奪った事実に疑いを向けており、この度、自由研究の題材として、アンディ失踪事件の真実を追求する。

自由研究の題材というのが面白い。
子供の頃は自由研究といえば夏休み恒例のかったるくてうざったくてウンザリさせられる行事の1つ。
漫画とかゲームにしか関心のなかった子供の私は何をやって良いか分からなかった。
そのため、当時の私は母の助けを借りて、アサガオの飼育をしたり、日航機墜落事故について調べたり、核実験についてを研究したこともあった。
自由研究をやった小学生・中学生の私からすると、これらの題材はまるで興味がなく、自由研究はただの親の傀儡となってこなす何の思い入れもない宿題の一つだった。

大人になると、色々なものに興味を覚える。
例えば、私なら映画や小説が好き。ホラー映画が好きなので怪奇について歴史を深堀ってみたい。
他にもキャンプ・サバイバルにも興味があるし、今読んでいる『三体』では主人公の趣味が写真ということもあり、写真に関心を覚え始めている。
ちょっと考えただけで、深堀りしたい題材は大量に存在するので、当時に戻れるなら、自由研究と称して色々な研究をしたいもの。
推しがいる人なら推しの歴史について調べると良い。
好きな漫画があれば、その漫画や漫画家のルーツを知るのも楽しそう。
ピップの自由研究で近所で起きた事件の真相に迫る題材選択は、斬新さかあり、とても興味深く思えた。

キャラクターが最高だった。
主人公のピップはそれほどませているタイプではなく、見た目は普通、むしろ恋愛とは程遠い、地味な雰囲気の女の子。
でもポジティブで積極的なので、事件の真相に迫るため、当時の事件の関係者にアポイントメントを取り、接触し、ガツガツと情報を引きだす。
センシティブな題材だし、中には知られたくない秘密を抱える者もいる。
ピップの敵のなる人物が現れる。
何なら真犯人と思わしき何者からか、脅迫めいた行為にたじろぐ瞬間もある。
でも決して引き下がらない。
むしろ、ピップの活発さ勢いを増すほど。
この出る杭を打たれても弾き返すほどの強さが、とても魅力的だった。

ピップの父も良かった。
謎に毎回、ピップの呼称を変えてくる。
家族の中の良さが伺いしれて良かった。
全体的にセリフも良かった。
ピップの父以外にもピップの友人や自由研究を手伝ってくれる相棒など、多くのキャラがユーモアを放つ。変にシリアス過ぎない空気感が良くて、軽妙なセリフの応酬についついページをめくってしまう。

文体も良かった。
軽めの文体だが、描写が細かくてキャラの心情や街の空気感は分かりやすく伝わってきた。
個人的には、作者との感性が似ているのか、理想的な文章を描く作家だと思った。

ストーリーも普通に面白かった。
かつて本屋大賞の翻訳小説部門で1位を取った『カササギ殺人事件』ほどのぶっ飛んだ展開はない。
正統派の作品で、結末も二転三転してくれるので楽しく読める。
個人的にはストーリーも良いが、キャラクターや会話劇がおすすめポイント。
チャンスを作って続編を読みたい。
というか本作も繰り返し読み直すこと間違いなしである。
キャラクターが魅力的なので、読了後もまた彼女らに会いたくなる。
Netflixの大ヒットドラマ「ウェンズデー」で主演を演じたエマ・マイヤーズでドラマ化するみたいなので、3部作すべて読破して迎えたいところ。

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自由研究には向かない殺人の作品情報

■著者:ホリー・ジャクソン
■Amazon:こちら、続編はコチラ

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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