■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3
「時間の残酷さ(ひかりより速く、ゆるやかに)」
【小説】なめらかな世界と、その敵のレビュー、批評、評価
『少女禁区』『百年文通』の伴名練による2019年8月刊行のSF短編小説。
【あらすじ】いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作のほか、脳科学を題材として伊藤計劃『ハーモニー』にトリビュートを捧げる「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連とアメリカの超高度人工知能がせめぎあう改変歴史ドラマ「シンギュラリティ・ソヴィエト」、未曾有の災害に巻き込まれた新幹線の乗客たちをめぐる書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」など、卓抜した筆致と想像力で綴られる全6篇。
個人的に最近、SF小説にハマり、ネットでおすすめを検索したところ、本作が挙げられていたので手に取った。
私は著者も知らないし、本作もどこかのサイトにおすすめされて初めて目にしたタイトル。
本作はSFファンからすると待望の一作だそう。
元々、著者の伴名練は同人誌でSFの短編を発表していて、あまりのクオリティの高さにSFファンの間では有名だった。
そんな伴名練のSF短編集が商業出版され、SFファン界隈で話題となった。
私はそういった前情報をまったく知らずに読むこととなった。
表題作の『なめらかな世界と、その敵』から、ぶっ飛んだ世界観を見せてくれる。
主人公らは高校生らしいのだが、セリフや地の文が噛み合わない。
明らかに、意図的に読者に違和感を与えているので、とりあえず深く考えずに読み進めていく。
すぐに状況が分かる。
本作は自由にパラレルワールドを行き来できる能力を持つ人間たちの暮らす世界。
例えば、雨が降ってかったるいな、と思ったら、晴れてる世界線に移動することができる。
なんて便利な能力だろうか。
私だったら好きな子に告白して失敗したら、告白しなかった世界線に移動したい。
ちなみに主人公だけではなく、この世界に存在するすべての人類が世界線を移動する能力を持っている。
そんな主人公の前に、パラレルワールドに移動することのできない同級生が現れる、という話。
本タイトルはそこそこ面白い。
伴名練の描きたい方向性を伝えるのに適した、軽い文体の作品だった。
その後の『ゼロ年代の臨界点』『美亜羽へ贈る拳銃』『ホーリーアイアンメイデン』『シンギュラリティ・ソヴィエト』はあまり好みではなかった。
コアなSFファン向けの作品といった印象で、私のようなまだ本格的なSF作品を大して読んでいないニワカSFファンには、少し早い印象だった。
そのため、あんまり期待せずに最後に収録されている『ひかりより速く、ゆるやかに』を軽いノリでページをめくる。
表題作やこれまでの作品と同様、世界観の説明は皆無で、物語は唐突に始まる。
物語の全貌がゆるやかに明らかになる。
何が起きたのか、修学旅行帰りの生徒らを乗せた新幹線の時間が止まってしまう。
主人公は色々あって修学旅行に行きそびれた高校生で、何とか被害を免れている。
また、よくよく調べると、新幹線は時間が止まっているのではなく、恐ろしく低速化していることが分かる。
助けようにも何かの力が働いており、新幹線のドアを開けたり破壊したり、新幹線そのものを、移動させることができない。
新幹線は見えない檻に閉じ込められてしまった。
果たして新幹線に乗り込んだ生徒や乗客を救うことができるのか、といった話。
まず、むちゃくちゃ面白いのが、低速化した連中を外から眺めることができるという点。
お喋りを楽しむ者やスマホゲームを楽しむ生徒。
あるいは恋人と愛を語り合う生徒もいる。
中の連中は、まるで低速化に気づかず、自分の世界を生きている。
この構図があまりに斬新で、先の展開が気になって仕方なかった。
それぞれの人間同士で流れる時間が異なるのは、私が最も好きな映画の1つ『インターステラー』を彷彿とさせた。
作者はSF好きなので恐らく、インスパイアされたのだと思われる。
しかも、インターステラーとはまったく異なるテーマの作品なので、別物として楽しめる。
またその後の展開や解決方法もユーモラスなので面白かった。
読者が納得できる流れでありつつ、解決の手法自体も何だかエモさがある。
映像がくっきりと頭に浮かぶ。
クライマックスも最高だし、もはや物語として完璧である。
作家の斜線堂有紀が帯で『こんな物語を書きたかった』と書いている。
本作に対してであれば、私も同感。
こんな最高な物語を作れたら命を落としても良いよ。
私もちょうど今、SF青春小説にチャレンジしているので、タイミングがドンピシャ過ぎる。
あまりに『ひかりより速く、ゆるやかに』が面白すぎるので、SFファン以外にも、この作品のみでも良いから読むことをおすすめしたい。
というか映像化してもっと多くの人に広めるべき。
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■異常 (アノマリー)
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