小説『罪の声』ネタバレなしの感想。未解決のギンガ・萬堂事件の真相を追う

ミステリー

■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「グリコ・森永事件の真相」

【小説】罪の声のレビュー、批評、評価

『騙し絵の牙』『歪んだ波紋』の塩田武士による2016年発表のミステリー小説。

35年前に日本中を震撼させ、未解決のまま時効を迎えた劇場型事件「ギンガ・萬堂事件」。大日新聞記者の阿久津英士は、文化部記者ながら昭和の未解決事件を特集する特別企画班に入れられ、戸惑いつつもこの「ギン萬事件」の取材を重ねていく。

2016年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位し、刊行当時は小説界隈で大きな話題をかっさらった1冊。
内容は、日本で実際に起きたグリコ・森永事件をモチーフとしたノンフィクションの色が濃い、フィクション作品。
グリコ・森永事件は1984年(昭和59年)から発生した食品会社や製菓会社を標的とした一連の企業脅迫事件だ。
私が生まれた直後に発生しているが、たびたびメディアで耳にしたことがある有名な事件。
今の10代や20代でも、一度くらいは聞いたことがあるだろう。
この事件が有名になった理由の1つが、劇場型犯罪であること。
劇場型犯罪とは、あたかも演劇や映画のように主役(犯人)、敵役(本事件だと大企業)などを連想させる対立構造が作られる。
さらに我々一般人が観客として楽しめるように、エンターテイメント性を持たせる演出を取る。
グリコ・森永事件の犯人グループは、小説家江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズに登場する怪人二十面相に由来する「かい人21面相」を名乗って、江崎グリコの社長を誘拐して身代金を要求したり、グリコのお菓子に青酸を混入し、一般市民を標的にするような行動も見せた。
また、犯人グループは何かしらのアクションを起こす度に、新聞社などのマスコミに声明や挑戦状を出す。
「グリコの せい品に せいさんソーダ いれた」
「グリコを たべて はかばへ行こう」
「こども なかせたら わしらも こまる 江崎グリコ ゆるしたる」

金の受け渡しの場所に、キツネ目の不審男が目撃されたことも印象的。
キツネ目の男の似顔絵も公開されているので、見たことがある人も多いだろう。
結局、犯人は金を受け取ることなく、誰の命も奪うことなかった。
犯人が捕まらず、時効を迎えている。
昭和最大の謎を持つ事件として、時の洗礼を乗り越え、令和の今の時代でも色褪せることはない。

作品内では実際に被害に遭った企業であるグリコ→ギンガ、森永→萬堂と社名を変えて描いている。

本作を読んだ第一印象としては、異様に描写が生々しい点。
それもそのはず。
『罪の声』のストーリー展開は、実際にグリコ・森永事件で発生した報道や日時、挑戦状や脅迫状はできる限りそのまま、採用し、描写されている。
『罪の声』の最後には、事件を調べた軌跡となる参考資料が多く羅列されている。
作者は相当に深くまで調べ、あるいは事件関係者に取材をしたりして、執筆に至ったのだろう。
そのため、読み応えは抜群。
描写が細かいので読み進めるのに時間が掛かってしまった箇所もある。
だが、どの描写にも説得力があるので、素晴らしい筆力だった。
先が気になりすぎて、時間を惜しむことなくページを捲ってしまった。
グリコ・森永事件は完全犯罪はあるが、作者なりの回答として、犯人を特定している。

終盤にかけての推理による展開は、さすがはフィクションなだけあって、ユニークな内容になっているのは良かった。
あまりにリアルに寄せすぎると、ただの重たいドキュメンタリックな内容に落ち着いてしまう。
本作はあくまでエンタメ小説。
面白い具合にまとめあげていて最高だった。
不満点を挙げるなら、後半の展開のほとんどが想定内になっている。
想像を超えるような驚きが皆無だったので、若干の物足りなさを覚えた。
もう二転三転させてくれたなら尚良かった。

キャラの魅力に乏しいのも気になる。
登場人物が多い割に、個性の強く、好きになれるようなキャラクターはほぼゼロ。
ノンフィクションベースの小説だから仕方ないかもしれないが、もう少し遊び心があっても良かった気がする。
扱う内容が繊細なので仕方ないかもしれない。

エンタメとして楽しみながら、実際に発生した超有名未解決事件の中身を知りたい人にはおすすめ。
かなり登場人物が多いので、メモしながら読み進めることをおすすめする。
私が作成した一覧を、ネタバレのないように編集したので、もし良ければ使ってもらいたい。

■登場人物一覧
阿久津英士:全国紙の文化部記者
富田:芸能デスク
鳥居:社会部の事件担当デスク
木戸昌男:欧州総局
コリン・テイラー:元誘拐交渉人
ソフィー・モリス:女性教授
水島:元記者、広告代理店社長
木村由紀夫:名古屋に住む年配の男、元教師
山根治郎:元不良少年
金田哲司:在日、盗んだ車を捌く業者
吉高弘行:刈り上げの男
曽根俊也:京都のテーラー(紳士服仕立て屋)を経営。ギン萬事件の子供の声
堀田信二:曽根の父の幼馴染、家具屋
曽根達雄:俊也からみて伯父。失踪中
フジサキ:63才。大阪の金融関係の仕事をしていた。達雄の知人
立花幸男:貿易会社顧問で、元証券会社勤務
生島秀樹:達雄と堀田の柔道教室の先輩、現在一家行方不明
ヨシノ:生島、大島の知人
大島三津子:中学教師、生島の知人
河村和伸:スーツの縫製をする。元テーラー曽根の外注先
天地幸子:四五、六才。大津市内の百貨店の婦人服売り場勤務

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罪の声の作品情報

■著者:塩田武士
■Wikipedia:罪の声
■Amazon:こちら、実写映画版はコチラ

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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