■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「ちゃんと分かり合わなければならない人がいる」
【小説】此の世の果ての殺人のレビュー、批評、評価
第68回(2022年度)江戸川乱歩賞を受賞した荒木あかねによる2022年8月24日刊行のディストピア・ミステリー小説
【あらすじ】小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受け続けている。小さな夢を叶えるために。年末、ある教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の遺体を発見する。教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める――。(Amazon引用)
読書レビューYouTubeの『ほんタメ』で、本作が勧められており、前からずっと気になっていた。
該当の動画は以下。
また私は新人賞に応募するための小説を書いているが、作品を添削してくれている先生が、添削時に本作を多く引用していた。
添削内容を深くまで理解する目的もあり、手に取った。
世界観・設定がとてつもなく魅力的。
ほんタメでも『特殊設定ミステリー』として紹介している通り、『3ヶ月後に地球に巨大隕石が落ち、人類は確実に滅ぶ』という命の危機にさらされている極限状況下で、主人公の小春はなぜか自動車学校で教習を受けている(笑)
ある日、連続して人の命は奪われる事件が発生。
小春と自動車学校の先生で、元刑事のイサガワとともに事件を捜査することになる。
もうすぐ人類滅亡するのに、車の運転を練習してる場合か!
と突っ込みたくなる。
でも小春には目的があって運転を学んでいる。
読者が納得できる説明はされるので、変な引っかかりがある状態で読了することはない。
また実際に地球が滅ぶってわかってたら、日常とそこまで変わらない生活を送る人もいそう。
私ももしこの後数カ月後に命を落とすと分かっていたら、小説を書くまではいかなそうだけど、ネタが思いついたらメモくらいはしそう。
好きな読書も続けるだろうし。
仕事は絶対にやらないけど。
話はズレるんだが、実は私も小説を書き始めたばかりの2018年ころ、本作と似たような設定の物語のプロットを書いた。
主人公は男子高校生。
同じように隕石が落ちるか何かで世界が滅亡するカウントダウンが始まっている中で、主人公は学校に通い、そんな時期に学校に赴任した女性の先生に恋をする話。
当時、通ってきた小説学校にこのプロットを提出すると、先生に却下された。
理由は『世界が滅亡するのに学校に通う設定は不自然だから』と。
そんなもんかあ、と私はプロットをボツにしたが、似た趣のことを本作でやられたので若干、悔しい。
確かに私の当時のプロットはショボかった。
でも『荒廃していく世界で恋をしたりと普通の暮らしの部分で葛藤する』設定は妙に気に入っていた。
もちろん特殊設定を、リアリティ溢れるストーリーや描写で描き切った本作の作者の荒木の力も凄まじいのは言うまでもない。
当時の私にもっと設定以外で、しっかりキャラやストーリーを描けていたら、却下されることはなかっただろう。
話を戻すが、本作は世界観が素晴らしい。
極限状態のため、それぞれのキャラクターの感情が揺れるエピソードが際立つのだ。
例えば、
【長らく会ってなかった友人と再会した】
といったエピソードって、平和な日常だと普通に嬉しいくらい。
もし数カ月後に世界が滅びる、ってなったら、その喜びは何倍にも膨れていると思う。
世界が滅ぶのに。
いや、世界が滅ぶからこそ、心の揺さぶりを強くする。
キャラクターがとてつもなく魅力的だった。
主人公の小春は地球滅亡が判明した直後、母に逃げられ、父は自ら命を落とした。
そのため引きこもりの弟と2人で暮らす。
弟はもともとの性格も相まって、心を閉ざしている。
対して、相棒となる自動車学校の先生の女性、イサガワはまるで正反対。
よく喋るしお節介だし、小春からするとうざったい存在。
この2人のやりとりを見ているだけで微笑ましくなる。
世界が滅亡することを忘れるほどに。
孤独なときほど、お節介な存在はありがたい。
家族というのは、お節介でやかましい存在。
家族=お節介。
読み進めていくにつれて、イサガワはまるで小春の本物のお姉さんに見えてくる。
分かってはいたけど、読み終わったらロスになった。
終わって欲しくないタイプの物語。
ずっと正反対の2人の言い合いとか、笑い合う姿を見守っていたい。
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■横浜駅SF
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