小説『教団X』ネタバレなしの感想。相反する2人のカリスマ率いる教団がぶつかる

スリラー

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3

「運命は存在するのか」

【小説】教団Xのレビュー、批評、評価

『銃』『掏摸』『去年の冬、きみと別れ』『R帝国』『列』の中村文則による2014年12月15日刊行のスリラードラマ小説。

【あらすじ】謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。(Google Books引用)

現在、私が書いている小説のテーマ『●●の向こう側』の参考図書として読むに至った。
『●●の向こう側』は二度と後戻りできない成長、または決断をした主人公の物語を指す。

もともと、本作はあらゆるシーンで何度もタイトルを耳にしていた。
2015年頃に放送されたアメトーークの『読書芸人』でオードリーの若林さんが紹介していたのを皮切りに、多くのメディアで本作が挙げられている印象があった。
現在は放送終了してしまった、お笑い芸人で小説も書くピースの又吉さんがMC を務めていた小説を紹介するテレビ番組『タイプライターズ』でも一時期、本作の作者の中村文則さんがレギュラーとして出演していた。
気さくで明るい印象のある中村さんが、物々しくシリアスそうなタイトルの本作を執筆していたので、いずれを読みたいと常々、思っていた。
どうでもいい話なんだが、当時 私は東京の池袋のとある カフェに頻繁に通っていた。
ある日、そのカフェのトイレで用を済ませ、 手を洗っていると ドア 向こう側に人影を感じた。
そのカフェのトイレは構造上、手を洗うスペースの前にドアがあるため、誰かが手を洗っていると外にいる人の中に入りづらい。
とはいえ、人が通れるスペースくらいはあるので、私は、誰かが手を洗っていても構わず入っていた。
なので、わざわざ待つ人物に対して『律儀な人だな』と思っていた。
手を洗い終え、ジェットタオルで乾かし、トイレから出た。
ドアの前で待っていたのは中村文則さんだった。
意表をつかれた。
元々、池袋に出没するような発言は『タイプライターズ』などでしていたが、一瞬にしてちょっと手を伸ばしたら当たる距離に出現したので驚いた。

作品の内容に話を戻したい。
ざっくりとした内容は、人が良い松尾という教祖が束ねる新興宗教団体と、毎週月曜に信者同士が性交渉をし、また歪んだ思想を持つ悪人の沢渡を教祖とする教団の対立を描いている。

アメトーークでも言及されているんだが、各々が掲げる思想の裏付けが無茶苦茶生々しくて面白い。
前半から中盤までは、良い教祖である松尾のユニークな思想が描かれる。
一言で言えば、運命はあるかもしれないしないかもしれない、という内容。
私も本作を読む前にテレビか何かで耳にしたことがあるのだが、人という生き物は何か動作をする時、何かをしようと意識して体を動かすものだと思われていた。
研究の結果、人は何かをしようとする前に、すでに脳が反応しているというもの。
意識して選択した言動は、無意識下で決定されていた。
つまり、人は脳に動かされて生きている。

また人間は無数の原子で構成されている。
話は宇宙の根源、ビッグバンにまで話は遡る。
だとすれば原子を生み出したビッグバンは原子を産むべくして発生したのか、それともたまたまだったのか。

といった具合に、松尾は人間について興味深く語る。
ビッグバンは私たちにとって馴染みのない存在だが、幽霊とか、親近感のあるもので説明するシーンもあり、とても面白く読ませてもらった。

もっとSF的な言及にも及ぶのだが、あくまでテーマとしての提示であり、実際のストーリーは SF ではなく、現実劇の ヒューマン ドラマだった。

キャラクターが魅力的。
真面目でお堅い印象のある松尾は、実際はものすごくスケベでギャップがある。
また対立する沢渡もキャラクターがぶっ飛びすぎていて魅力に溢れている。

ただ本作は、私の好みとは少しズレていた。
ほぼすべてのキャラクターにクセがあり、誰一人として共感することが難しかった。
誰にも感情移入できなかったので、誰かが悲劇に遭ったところで、私の感情は動かされることなく、遠くで何か大変なことが起きてるなー、って感覚で眺めていた。

後、純文学小説のため、冒頭に目的が提示されないのが辛い。
ミステリーだったら『事件の謎を解く』とか、恋愛小説なら『2人は結ばれるのか』みたいに、エンタメ小説は冒頭で物語の方向性が提示される。
だが、本作は何がどうなるのかまるで描かれないので、どうも読み進めるモチベーションが湧かず、結果的に読み切るのに2週間もかかった。
(私が小説を1冊、読み切る平均所要時間は3日〜1週間程度)

500ページという超大作でもあるので、人を選ぶ作品だと思った。
不気味なカリスマキャラに興味がある人は読んでいいと思う。

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■火花

■虚の伽藍

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■成瀬は天下を取りにいく

■エヴェレスト 神々の山嶺

【教団Xの作品情報

■著者:中村文則
■Wikipedia:中村文則
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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