小説『祈り』ネタバレなしの感想。駄目リーマンと超能力を持つ中年男が出会う

スリラー

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「運命の出会い」

【小説】祈りのレビュー、批評、評価

Huluで実写ドラマ化されたミステリー小説『代償』の著者・伊岡瞬による2015年刊行のドラマ小説。

【B】【あらすじ】東京になかなか馴染めない25歳の楓太は、ある日公園で信じられない光景を目にする。炊き出しのうどんを食べる中年男・春輝が箸を滑らせたその瞬間―。“田舎者”の劣等感を抱える若者と、“望まない力”を持つがゆえ暗い過去を背負って生きてきた中年男の人生が交錯するとき、心震える奇跡が起きる。

伊岡瞬は『代償』に続いて2冊目となる。
『代償』は主人公の圭輔が不遇な境遇によって、遠縁の達也という少年と住むことになるのだが、この出会いが更なる困難に見舞われる話。
とにかく不幸不幸不幸で、だいぶ昔に読んだにもかかわらず記憶に残っている作品。
個人的に好みの作品ではなかったが、本作『祈り』は職場の同僚に勧められたので読むに至った。

先の展開が読めないエンジンを備えていない物語だった。
普通、小説でも映画でも、読者に興味を惹かせるためのフックが存在する。
ミステリーは分かりやすい。
誰かの命が奪われた。だが、密室状態で、この場にいる誰もが犯行は不可能。
『一体、誰がやったのか』『どんなやり方で命を奪ったのか』
といった風にミステリーは冒頭に主人公の『目的』が提示される。
登場人物の命を奪った犯人や、犯行のトリックが気になり、読者は好奇心からページを捲る手が加速する。

だが本作には目的が存在しない。
主人公の一人・楓太は、周りを見下しながら、東京での生活をだらだらと過ごす駄目サラリーマン。
物体を浮遊させたりと、超能力を持った中年男・春輝がもう一人の主人公。
二人の主人公が交差し、生まれた物語が淡々と紡がれる。
彼らが何のために、何をしたくて生きているのかの描写が一切ない。
読者はただ、二人が出会い、一体どんな結末を迎えるのか、を見守るようにページを捲る。
先の予想もしがたいし、一見、退屈そうに思えるが、意外にも面白かった。

そもそもキャラクターが魅力的である。
サラリーマンは本当に人間的にクソで、自分が得さえ出来たら周りが不幸になっても問題ないと思えるタイプ。
たまたま新宿で見掛けた、高そうな腕時計を身につける春輝の金を巻き上げようとするのだから、最低である。
春輝は、能力を持ってしまったからこそ、何かと不幸に巻き込まれる可哀想な男。
二人を取り巻くヒロイン的な女性キャラや、春輝になぜか良くする反社っぽい男など。
誰もがキャラ立ちしているから、ついつい先が気になってしまう。

キャラクターの行く末に興味を持って楽しめる。
好みの分かれる結末ではあるが、なかなかの想定外な方向に向かってくれるのも良かった。
恐らく、作者は意図してエンジン未登載の物語を作ったんだろうなと思う。
割と楽しい本だった。
やはり魅力的なキャラクターが生み出されるだけで物語は楽しくなる。

東京を舞台とする作品のおすすめはコチラ。

■BUTTER

■娼年

■小銭をかぞえる

■火花

■狭小住宅

祈りの作品情報

■著者:伊岡瞬
■Wikipedia:祈り
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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