■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「奇怪な館の事件は予測不能」
【小説】迷路館の殺人のレビュー、批評、評価
『十角館の殺人』『Another』の綾辻行人による1988年刊行のミステリー小説。
本作は奇怪な館、叙述トリックを用いられた人気ミステリーシリーズ、『館シリーズ』の第3作品目となる。
【あらすじ】鹿谷門実のデビュー作『迷路館の殺人』。それは作者自身が巻き込まれた実在の連続殺人事件を基にした推理小説であった。推理作家界の巨匠・宮垣葉太郎の還暦の祝賀パーティーに招かれた推理作家、評論家、編集者、そして島田潔。約束の時間を過ぎても現れない宮垣を待っていると、秘書の井野が現れ、宮垣が今朝、自殺したこと、遺書に従い、警察には通報していないことを告げる。宮垣は1本のテープを遺していた。そのテープの内容は、館に滞在する作家4人は、“迷路館”を舞台とした、自分が被害者となる殺人事件をテーマとした、遺産相続者の審査・選別のための推理小説を5日間で執筆しなければならない、最も優れた作品を書いた者に、遺産の半分を相続する権利を与える、というものだった。
かなり好きな作品だった。
本作を特徴付けるのが、メイン・エピソードが【作中作】である点。
館シリーズでおなじみの探偵役・島田潔に送られてきた『迷路館の殺人』という小説の中身が、本作の大半を占める。
この作中作という設定が、新鮮で良かった。
作者は意図しているかわからないが、この作中作という設定が、叙述トリック特有の軽薄さの回避に繋がっている。
叙述トリックとは、先入観などを利用し、読者を誤った解釈に導くトリックを意味する語。
例として、人物の性別や年齢、時系列や場所などに関して、文章中で重要な情報を巧みに隠匿し、読者を欺く。
「少年だと思っていたら、実は老人だった」とか。映像にはできない、小説ならではの技法。
(たまに映画や漫画でも見られるが)
館シリーズといったら叙述トリックが用いられるシリーズとして有名。
そのため、本作も漏れなくキレのある叙述トリックが読者を襲う。
話を腰を折るが、私が叙述トリックがあまり好みではない。
その理由は、叙述トリックものは、叙述トリックを仕掛けるぞ!といった意気込みで作られているため、驚きがあるだけでドラマの強度が弱い。
叙述トリックの特性として、登場人物は欺かれていないが、読者は欺かれるという点。
叙述トリックはただ文章という表面上で読者を欺いているだけなので、物語として酷く薄っぺらく感じるのだ。
だから、ドラマ性が伝わらない。
物理トリックならまだ良い。
物理トリックは登場人物も犯人によって欺かれているため、読後感は悪くない。
だが、本作は作中作上で叙述トリックをするので、不思議と軽薄さが感じられなかった。
詳細についてはネタバレになりそうなので伏せるが、叙述トリックの弱点を潰して上手くやっているなあと関心した。
シンプルに賞金をかけた執筆合戦という設定もいい。
大御所作家の遺産をかけて、弟子たちが5日間で短編を仕上げるという流れ。
小説を執筆することによるバトルものって、見たことがないので新鮮さを感じた。
さらに、私も小説を執筆する身なので、どうやって5日間で仕上げるのか、つい頭を動かしてしまった。
迷路館という、不気味なロケーションも最高である。
ミステリーの醍醐味の一つは、本の頭に載っているマップにある。
本作の冒頭のページに記載されているこのマップが、気が狂ったような迷路状となった館なので、ワクワク感が止まらない。
古い小説だが、新鮮さを感じられる箇所が多くて、満足度が高かった。
ミステリー好きにも、そうでない人にもおすすめしたくなる。
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