■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「人類が迎える未来は少し不可解かもしれない」
【小説】新世界よりのレビュー、批評、評価
『黒い家』『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』『青の炎』『悪の教典』『鍵のかかった部屋』による貴志祐介著の2008年発行のSF青春小説。
【B】1000年後の日本。人類は「呪力」と呼ばれる超能力を身に着けていた。注連縄に囲まれた自然豊かな集落「神栖66町」では、人々はバケネズミと呼ばれる生物を使役し、平和な生活を送っていた。その町に生まれた12歳の少女・渡辺早季は、同級生たちと町の外へ出かけ、先史文明が遺した図書館の自走型端末「ミノシロモドキ」と出会う。そこから彼女たちは、1000年前の文明が崩壊した理由と、現在に至るまでの歴史を知ってしまう。禁断の知識を得て、早季たちを取り巻く仮初めの平和は少しずつ歪んでいく。
貴志祐介作品は映像化に向いているのだろう。
連続ドラマになった『鍵のかかった部屋』を始めとする、多くの作品が映像化されている。
貴志さんの作品の中でも、特にメディア・ミックスが盛んに行われているのが本作『新世界より』である。
評価も高い印象があり、期待して読んだ。
上巻、中巻は、思ったほど読むスピードが捗らなかった。
理由は、主人公らが何に向かうストーリーなのかまるで説明されないため。
序盤は、「呪力」と呼ばれる超能力が当たり前に使える未来、といった感じの舞台説明が淡々とされる。
主人公の渡辺早季を始めとする子供たちは、学校で超能力を学んだり、夏季キャンプに参加したりする。
設定自体は面白い。
超能力を学ぶ学校って、何だか中二病をくすぐられる魅力的な世界観。
スプーンすら曲げることもできない平凡な我々と比べ、ユニークな日常を送る早季らの目指すべきものが不明瞭だった。
ただ早季らの日常が描かれているだけなので、先の展開が予想しづらく、ページが捗らない。
一応、ミステリー要素はある。
小学校「和貴園」を卒業して、呪力の訓練を行う「全人学級」に入学する。
だが、「全人学級」に入学できない、能力の劣った何人かの生徒がいなくなるのだ。
いったい、彼等はどこにいったのか?
先生たちが彼等を消したのか?
といった謎は存在する。
だが、早季を初めとするメイン・キャラクターたちは一応、「全人学級」に進学できているので、彼等に命の危険はない。
そのため、ミステリーとしてのエンジン要素としては少し弱い。
例えば、本作に似た設定でいえば『約束のネバーランド』がある。
施設で育てられる彼等の目標は、養子として里親に貰われること。
でもなぜか、養子としてもらわれた友達たちからは手紙の1通も来ない。
さらに施設は、不自然にも高い壁に囲まれている。
不穏な空気の宿る施設は何の目的で作られたのか?
また、養子にもらわれた先では何が起きるのか?
『約束のネバーランド』は主人公たちも養子に出される可能性のある立場だ。
読者としては彼等に感情移入することで、「主人公たちの身に何か遭ったらどうしよう」と心配になり、ドキドキさせられる。
そのため『新世界より』も、導入部分をもっと魅力的に作って欲しかった。
ただ、オリジナルの世界観の浸れた満足度は大きい。
一部の狂った人間の成れ果てである怪物・悪鬼。
言葉を話したりする異形の生き物、バケネズミや、その他の独創的な生き物の数々。
なぜか注連縄で囲われる主人公が住む町。
作り込むのに多大な労力・時間を費やしたであろう圧倒的な世界観を楽しめて贅沢な気分だった。
終盤の展開も素晴らしかった。
下巻からは、予想を裏切る想定外の展開で、一気にページをめくってしまった。
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新世界よりの作品情報
■著者:貴志祐介
■Wikipedia:新世界より(ネタバレあり)
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