小説『サンマイ崩れ』ネタバレなしの感想。精神科を抜け出した僕が水害に遭った村のボランティアに参加する

SF

■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★☆☆☆2.5

「知らないほうがいい真実もある」

【小説】サンマイ崩れのレビュー、批評、評価

吉岡暁による2008年7月25日刊行のホラー小説。

私はホラー小説ファンであり、角川が主催する小説の新人賞、日本ホラー小説大賞(現在は横溝正史ミステリ&ホラー大賞)の受賞作品はチェックしている。
第13回(2006年)に、短編部門で本作が受賞していたので随分前に購入していた。
長らく積読状態だったが、YouTube で『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の小説家の石田衣良が、本作に収録されている中編『ウスサマ明王』を強く勧めていたので、ようやく読むに至った。
当該動画のリンクは下記。

2篇で構成されている小説なので、1編ずつ感想を伝えていきたい。

『サンマイ崩れ』★★★☆☆3

【あらすじ】熊野本宮に近い山村が大水害で多くの死傷者を出したと聞き、僕は精神科の病院を抜け出した。奇妙な消防団員二人と老人とともに熊野古道を進み、崖崩れで崩壊した隣村の墓地にたどりついた僕が見たものとは?

重度の精神疾患を抱え、人との交流もまともにできない主人公の僕は、ボランティアをするため、被災地に向かう。
人里離れた僻地に加え、交通規制がかかっているので、バスで行けるところまで行き、最後は運動不足の体にムチを打って目的地へ目指す。
現地に到着するも対人恐怖症を発揮して、なかなか受付でボランティア活動の申告をすることができずに困惑する。

果たして僕は何の目的でボランティア活動に参加しようと思ったのか。

現地で僕はワタナベという老人と出会う。
ワタナベの住む村では土葬の文化があり、今回の災害で墓地(サンマイ)が崩れてしまった。
そのため、墓地の修繕のために消防団員2人と僕は墓地に向かった。

何もかもが謎に包まれており、なかなか読むペースが捗らなかった。
病気である僕がなぜここまで奮闘するのか不明だし、ワタナベも墓地に消防の連中を連れ出すことに、何かを企んでいる様子。
更にはワタナベが住む集落の墓地は『出る』との噂があるとのこと。
あまりに先の展開が読めなすぎるので、待ち受けているであろう何かしらのトラブルには好奇心が湧きづらかった。

更には癖のある文体もリーダビリティを著しく落としている。
熊野信仰という古の信仰が題材になっており、硬めの文体に信仰に関する聞き馴染みのない専門用語も出てくる。
更には登場人物の方言がきつく、読みづらい要素のてんこ盛りだった。

ストーリーはシンプルだし、この手の文体は田舎独特の世界観を作ってくれるので悪くはなかった。
だが、古い小説という理由もあるが、2025年現在からするとオチ既視感があるので、満足度はそこまで高くない。

『ウスサマ明王』★★★☆☆3

【あらすじ】明治39年初夏。東京府南多摩郡八王子町にある吉祥谷村落に、浮浪の親子6人が流れ着く。会津から来た一家が住む東北は、天保飢饉以来と言われるほどの大凶作に見舞われていた。支援を求め、縁戚の黒田家のある村落に向かっていた。だが黒田家は取り壊されており、現在八王子一帯で一大産業となっている養蚕施設になっていた。一家は行き場を失い、たまたま山路で見かけた古い寺『天台宗大泉山慈光寺』に数日だけ住まわせてもらう。

本作は2つの時間軸で話が展開される。
1つは明治39年で、貧しい一家の苦悩が描かれる回想。
『ユーマル(未特定鳥類様擬態生物)』と名付けられた田舎の寒村に巣食う化け物、自衛隊が退治をする現在の時制のエピソードがもう1つ。

1話目の『サンマイ崩れ』とはまるで趣の異なるモンスターパニックアクション小説となっている。
あまりに毛色が異なる空気感ではあるが、文体は相変わらず硬質で癖が強い。
今作に関しては話自体はドラマ性は控えめの分かりやすいドエンタメなので、堅め文体と内容のバランスが良かった。

世界観も良かった。
閉塞的な田舎の村で繰り広げられるモンスター物って、映画など他のメディアを含めてあんまり接した記憶がない。
田舎を舞台とすると、奇妙な因習によって狂った村民に命を狙われるスリラーが多い。
そのため本作は鮮度のある設定で良かった。

ただ、いかんせん楽しみづらい
モンスターものは、敵のルールを提示してくれないと読者としてはどう読んで良いかわからない。
モンスターこういうシチュエーションではこんな行動を起こすとか、こういう弱点があるとか。
ルールがはっきりしていると、読者は先読みできる。

本作のモンスターはその手の情報が提示されないので、何をしたら勝てるのか、どんな状況になると人類は負けるのか、のイメージが湧かない。
そのため、楽しみようがない。
私の好きなバトル漫画『HUNTER×HUNTER』なんて、物凄く丁寧にルール作りしてくれているので、ついつい比べてしまった。
先が予測できれば、その予測を裏切る展開を迎えたとき、読者は興奮する。

ユーマルの造形も分かりづらい。
本来は鳥の形なんだが、擬態するという特性があるので、普通に銃を扱ったり、爆弾で人間たちを追い詰めたりする。
敵をイメージしづらい結果、脅威にも感じづらかった。

また、一家がエピソードが途中のまま、クライマックスまで行ってしまう構成にも難があったように思える。
何となく予想はつくけど、もっと早い段階で一家に何があったのか見せてくれたほうが、現在のエピソードに対して読者も気持ちが乗りやすい。

2篇通して語ると、2025年現在ではすでに古臭さを感じる作品だった。

人外を魅力的に描いたおすすめ作品はコチラ。

■ぼぎわんが、来る

■幼年期の終り

サンマイ崩れの作品情報

■著者:吉岡暁
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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