■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「学びは人生を豊かにする」
【小説】宙わたる教室のレビュー、批評、評価
『藍を継ぐ海』で第172回直木三十五賞を受賞した伊与原新による2023年10月20日刊行の学園ドラマ小説。
【あらすじ】東京・新宿にある都立高校の定時制。
そこにはさまざまな事情を抱えた生徒たちが通っていた。
負のスパイラルから抜け出せない21歳の岳人。
子ども時代に学校に通えなかったアンジェラ。
起立性調節障害で不登校になり、定時制に進学した佳純。
中学を出てすぐ東京で集団就職した70代の長嶺。
「もう一度学校に通いたい」という思いのもとに集った生徒たちは、
理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成し、
学会で発表することを目標に、
「火星のクレーター」を再現する実験を始める――。(Amazon引用)
本作はNHKより2024年10月に全10回でドラマ化されている。
ドラマ版がとにかく世間からの評判が良く、その期に放送された中でナンバーワンの出来の良さとの呼び声も高い。
私には、この人のおすすめエンタメは問答無用で拝見、拝読する信頼を置く人物が3人いる。
その中のひとりのテレビ番組制作者で、『ゴッドタン』『トークサバイバー』『罵倒村』の製作・演出を手がける佐久間宣行さんも本作を勧めていた。
本作について言及している動画は下記。
ドラマ版を視聴したかったんだが、個人的には原作小説のほうが手に取りやすかったので読むに至った。
本作は全七章から成る連作短編集風の長編小説となる。
一章ごとに視点人物が変わり、舞台となる都立東新宿高校の定時制に通う生徒の目的、境遇が描かれる。
全ての章を通じて生徒たちか所属している科学部での活動が描かれ、根っこのストーリーは一貫しているので、長編小説として成立している。
本作はどの章も優れていた。
学ぶことに強い想いがあるフィリピン人の中年女性アンジェラ。
団塊の世代で、子供の頃は学校に通えず、集団就職せざるをえなかった老人の長峰。
精神病に苦しみながらも定時制に通う決心をした16歳の佳純。
全員の境遇が大変で、強く心を打たれた。
我々のような当たり前のように全日制に通えた人間は、普通ではなく、むしろ恵まれていた。
彼らは全日制に通いたくても通えなかった事情がある。
というのも、我々は定時制=勉強が不得意な学生が集まる場所、といった偏見はなかっただろうか。
読んでて普通に泣いてしまったエピソードもあり、読み応え抜群だった。
中でも好きだったのは第一章。
若い男子学生の岳人(たけと)は金髪ヤンキー。
岳人は今まで勉強しようにも、なかなか集中できず、結果的に放棄してしまった。
だが岳人は定時制高校に入学し、もう一度、勉強にチャレンジする。
目的は2つある。
せっかくなのでネタバレになるので伏せておく。
岳人が抱える悩みが晴れた時の爽快感たるや。
感情移入しまくって、読みながら岳人と一緒に拳を強く握り締めた。
心に刺さる文章やセリフも多めで良かった。
全力で学ぶ人間から滲み出た言葉には重みがある。
ついついメモ帳にたくさんメモした。
キャラも魅力的だし、ちょくちょく意表を突くストーリーもあって満足度は高め。
あと読んだ後はドラマ版を観たくなる。
視点人物たちが所属する科学部ではいくつかの実験が行われる。
この実験に関しては文章よりも映像のほうが臨場感は感じられると思う。
恐らくドラマでも忠実に実験を再現してるだろうから、装置がどう動き、どんな検証結果となるのかこの目で確かめたい。
本作は多くの人に勧められるが、特に学ぶことが好きな人に読んでもらいたい。
また学校に戻りたくなるおすすめの学園ものはコチラ。
■でぃすぺる
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