■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3
「衝動や欲に身を委ねて生きる幸福」
【ノンフィクション本】バルザック伝のレビュー、批評、評価
『ゴリオ爺さん』『あら皮』の19世紀のフランスを代表する小説家バルザックの生涯を描いた1999年11月1日刊行の伝記本。
【あらすじ】ロマンチックな天才神話に包まれ、実像が定かならぬバルザック。生涯を彩った女性たちの書簡等を通じてこの類い稀な作家の姿が立ち現われてゆく。評伝の名手トロワイヤ会心の一作。(Amazon引用)
1800年代に活躍したフランス人作家。
古典文学にそこまで興味のない私でも名前は聞いたことのある文豪だ。
当時、フランスで活躍した『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユゴーは深い親交があり、ユゴーはバルザックが病床で息を引き取った瞬間にも立ち会っている。
『赤と黒』のスタンダールや『惡の華』のボードレールも同時期に活躍しており、彼らのような著名人が作中に出てくるとテンションが上がった。
私はバルザックを含む彼らの著作を読んだことはないが、名のしれた文豪と交流するバルザックの格を感じた。
まるでバルザックは、非常にアクティブで貪欲な人だった。
子供バルザックは勉強にはまるで興味はないが、文学の傑作には惹かれていた。
学校の図書館にある本は片っ端から読んだ。
本の世界に魅了されるバルザックは、早くから名の知れた文豪たちと肩を並べたいと願った。
そして、自分には才能があり、世界を征服できる確信さえもあった。
素晴らしい万能感だ。
私は子供の頃から今に至るまで心から自信を持てたことはない。
勉強にしても仕事にしても。
だが、一流になるにふさわしい才能の持ち主の強いメンタリティが伝わってくる。
死ぬ間際のバルザックは病気で部屋から一歩も出れないくらい衰弱していた。
自らの命が尽きる瞬間まで、バルザックは、頭に残るアイディアを形にしたいと願っていた。
強さが現れてるのは仕事だけではない。
バルザックは二十代の若い頃から太っちょで、歯もボロボロだった。
ファッションセンスも皆無で野暮ったいルックス。
だが溢れ出る自信が鋭い眼光を産み、自身の好みの高貴な女性におかまいなしに、アプローチを繰り返す。
気品のある女性たちは、バルザックの眼力にやられ、心を許すのだ。
自信って大事なんだなと、思った。
バルザックが良いのは、普段は自信家でたくましいのに、仲良くなった女性に塩対応されると、すぐに不安になって、『俺はこんなにあなたを愛しているのに』といった女々しくも情熱的な手紙を送りまくる。
子供のような豊かな感情を恥ずかしげもなく見せていくピュアな姿もまた、女性には可愛げに映り、母性をくすぐられ、魅力に感じたのだろう。
特に初期の愛人ベルニー夫人は、バルザックにとことん尽くす。
恋人ならではの精神的な支えだけに留まらない。
バルザックの小説の校正を手伝い、中身についても忌憚ない意見を述べる。
心から、バルザックの力になりたいって思って寄り添い続けたのだろう。
年上のベルニー夫人は年老い、バルザックは彼女に女性としての魅力を感じなくなった。
それでもベルニー夫人にバルザックの力になり続ける。
ベルニー夫人が亡くなる時、バルザックは酷く落ち込んだ。
自分も感慨深い思いだった。
本作はバルザックが家族や愛する女性たちに送った膨大な手紙を元に、その当時のバルザックを考えや感情を描く。
手紙って良いなって思った。
今の時代LINEなどのメッセージでやり取りする。
写真もスマホで撮影するのがスタンダードなので、デジタルデータとしてスマホやパソコンに保存される。
便利な反面、スマホやパソコンが壊れたら一瞬で消える。
死後、その人の生きた証を形として残すのが難しい世の中だ。
だからこそ、本作を通して今もなお、200年前のバルザックの体温を感じられたのはアナログな手紙のおかげだ。
正直、読むのが大変で、読了に2ヶ月を要した。
2段組のレイアウトで、改行はほとんどない。
なじみのないフランス革命時代の彼らの暮らしをイメージするのもカロリーを使う。
でも、バルザックの全力失踪で駆け抜けた愛や情熱の人生に触れられて良かった。
彼の代表作である『ゴリオ爺さん』『あら皮』辺りは読んでみたい。
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■著者:アンリ・トロワイヤ
■Wikipedia:オノレ・ド・バルザック
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