■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「女性の尊厳のなさは戦場で浮彫になる」
【小説】同志少女よ、敵を撃てのレビュー、批評、評価
2022年本屋大賞1位を獲得し、第166回直木三十五賞候補となった逢坂冬馬による2021年11月17日刊行の戦争ドラマ小説。
【あらすじ】独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが命を奪われた。自らも標的にされる寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、しにたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?(Amazon引用)
近年、小説の売り上げに多大な影響を持つ文学賞『本屋大賞』の上位の作品には、個人的にあまり信用していない。
現役で活躍する小説家が審査員を務める直木賞などの他のエンタメ系文学賞とは異なり、本屋大賞はアマチュアである書店員の投票によって1位から10位までランキング形式で発表されるのが特徴。
エンタメ小説の最も権威ある文学賞で、年に2回開催される直木賞は、主催者である出版社の文藝春秋の編集者が、その月に刊行されたもっとも優秀な作品を選出し、5〜6作が直木賞候補として本選を競う。
やっぱり編集者やプロの作家が選ぶだけあって、その時代のトレンドが反映されていたり、受賞作においては受賞に至った理由が存在することが多い。
(もちろん、消去法で仕方なく選ばれた作品もあるとは思われる)
つまり、面白い面白くないは採点基準の一つに過ぎない。
だが本屋大賞はアマチュアが選定するため、読みやすかったり、万人受けする内容など、ややマイルドな作品が選ばれる印象がある。
本当に今の時代に読むべきなのだろうか、と疑うような作品がランクインされることもあり、個人的に本屋大賞作品を読むモチベーションは、あまりない。
なぜなら読みづらくても、面白さが分かりづらい作品でも、読む価値のある本は存在する。
(小説に何を求めるのかは個人の自由なので、私の考えが全てではない)
あまり信用していない本屋大賞で1位を取った本作は、ストーリーに興味があったので前から気になっていた。
今回、第173回直木賞で、同著者の作品が候補となっていたので、まずはデビュー作である本作を読むに至った。
結論から言うとかなり面白かった。
リアリティがとんでもない。
第二次世界大戦下で、ソ連のスナイパーとして戦場に駆り出される田舎の村出身の少女セラフィマが主人公。
セラフィマの視点で、女性の尊厳を問う今の時代っぽいテーマが描かれる。
私は歴史に無知ではあるが、ソ連は他の国ではありえなかった女性を狙撃兵として戦場に送る行為を実際にやっている。
(他の国では戦場に駆り出されるにしても炊事班とか、女性には兵士を支援の役割が与えられていた)
本作では、テーマを語らせる重要人物であるリュドミラ・パヴリチェンコという300人超のドイツ兵を撃ち抜いた女性凄腕スナイパーが出てくるのだが、実在の人物である。
『ロシアン・スナイパー』というタイトルでリュドミラの半生を描く映画もあるので、興味があれば鑑賞すると良い。
こんなに感じで実際の人物が物語に自然と盛り込まれるので、やたらとストーリーの強度が上がる。
また、狙撃兵の訓練もすごい。
田舎の村を滅ぼされたセラフィマは、イリーナという女性スナイパーで、狙撃兵養成学校の教官に、スナイパーとして第二の人生を与えられ、狙撃の技術を学ぶことになる。
初日の授業では、銃を持たせてもらえない。
弾道学という聞きなじみのない学問のロジックを駆使し、また『ミル』という戦場で使われる角度の単位を使って、スコープだけで、教官から指定された場所の距離の感覚で掴む訓練を行う。
狙撃兵はただひたすら狙撃銃で的を打つ練習するだけかと思っていたので、意表をつく難易度の高そうな 訓練のシーンは生々しさがあると同時にワクワクさせられる。
知らない世界に踏み込んだって感じがしたので。
本作はXの読書垢で、『敵』について言及されることが多かった。
セラフィマにとって『敵』とは何なのか。
そう考えながら現れた敵は衝撃的だった。
またクライマックスでは想定外の展開が連続で叩き込まれるので、無心になって文字を追った。
微妙な点として、キャラクターが意外と魅力に欠ける。
600 ページもの膨大な物語の中で、重要人物たちが、命の危機を感じるほど ピンチに遭遇する場面が思ったより少ない。
また、キャラクターの関係性の変化も少ないので、ごく一部のキャラしか感情移入できなかった。
とはいえ、本屋大賞作品とは思えない読み応えだった。
直木賞受賞作でメキシコカルテルを題材とした『テスカトリポカ』のような目を覆いたくなる凄惨なシーンは思ったより少なく、戦争を題材にしているとは思えないマイルドさは本屋大賞っぽいが。
(もちろん戦場における女性の扱いの悪さは胸糞。だが、それをシーンして書き出していない)
あと、小説を読んでるとは思えない資料をそのまま貼っつけたような箇所もあったのも気になった。
とはいえ、読み応え抜群の重厚なストーリーだった。
特に女性におすすめしたい。
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同志少女よ、敵を撃ての作品情報
■著者:逢坂冬馬
■Wikipedia:同志少女よ、敵を撃て
■Amazon:こちら
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