■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「人の才能は多くの人を救済する。だからこそ第三者に潰されるべきではない」
【小説】踊りつかれてのレビュー、批評、評価
『罪の声』『騙し絵の牙』『歪んだ波紋』『存在のすべてを』の塩田武士による2025年5月27日刊行の社会派ドラマ小説。
【あらすじ】首相へのテロが相次いだあの頃、インターネット上にももう一つの爆弾が落とされていた。ブログに突如書き込まれた【宣戦布告】。そこでは、SNSで誹謗中傷をくり返す人々の名前や年齢、住所、職場、学校……あらゆる個人情報が晒された。
ひっそりと、音を立てずに爆発したその爆弾は時を経るごとに威力を増し、やがて83人の人生を次々と壊していった。
言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷にあったお笑い芸人・天童ショージは自害を選んだ。ほんの少し時を遡れば、伝説の歌姫・奥田美月は週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。
彼らを追いつめたもの、それは――。(Amazon引用)
2025年上半期、第173回直木賞候補作品。
同著者の小説は、2016年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位を獲得した『罪の声』のみ読了済。
『罪の声』は1984年に実際に起き、未解決のまま時効を迎えた完全犯罪、食品会社を脅迫する『グリコ森永事件』を題材としている。
著者が事件について徹底的に調べ、落とし込まれたストーリーはとてつもない リアリティがあり、のめり込んで読み切った。
作者なりに提示した解も説得力があったし、社会派小説として抜群のクオリティを誇っていた。
本作も何かと問題視される不祥事起こした 有名人に対する SNS叩きをテーマとする社会派小説。
個人的には、この 題材にはあまり惹かれなかった。
そもそも、X(旧Twitter)をメインとする、有名人をターゲット にしたSNS批判を問題提起する作品はすでに多く存在する。
本作を読んで真っ先に浮かんだのは2019年に刊行された『火花』で芥川賞を受賞した芸人の 又吉直樹による長編小説『人間』。
青春の、その後を描くストーリーではあるが、メインキャラクターの1人である人気 お笑いコンビ『ポーズ』の影島が不祥事を起こした後に 記者会見をするシーンが印象的に描かれる。
SNS批判の渦中の人となった影島がSNS批判についての持論を語る。
又吉さん自身が芸能人であるし、おそらく 近くの人間が被害 を被っただろう。
影島を通して語るメッセージ性の熱量は、読んでいて目が焼けるかと思った。
他にも同じく2019年に放送された菅田将暉主演のテレビドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』など、すでに手垢のついた題材なので、鮮度はまるで感じられなかった。
世界観は素晴らしかった。
週刊誌の虚偽の不倫報道によって芸能界引退 の追い込まれた奥田美月は、1980年代に活躍した女性アイドル。
この時期の世間に強大な影響力を誇った音楽シーンのディテールが作り込まれていて生々しかった。
巻末の数々の参考資料に裏打ちされて作られた空気感が、読者を80年代に引きずり込むのだ。
今でも音楽は世間に社会現象を起こすほどの影響はあるが、ネットが存在する今とは違って、娯楽の少なかった時代はみんなが音楽に夢中になっていた。
私も今年42才で、1990年代に青春を送っていた身なのでよく分かる。
ヒマさえあればCD プレーヤーで部屋に爆音で流行りの音楽を流してたし、友達とも頻繁にカラオケに行っていた。
当時は音楽番組がとても多く、定期的にチェックする番組が いくつもあった。
さすがにクライマックスはやられた。
本作は多くのキャラクターの 視点で物語が語られるため、すでに描かれた エピソードが再び描かれることが何度もあった。
そのせいか 480 ページという過剰なボリュームになってる印象。
だが、この多視点で語る作者の狙いがクライマックスで炸裂する。
さすがに心が震える展開で、ここまで読み進めて良かったと思わせられる。
個人的に直木賞は難しい作品に思えるが、作り込まれたストーリーに読み応えを、感じた。
次は個人的に受賞に最も近いと推測する『ブレイクショットの軌跡』を読もうと思う。
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■でっちあげ
■人間
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