■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「人間、最期は執念がものをいう」
【小説】火喰鳥を、喰うのレビュー、批評、評価
第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。
原浩による2020年12月11日刊行のホラー小説。
【あらすじ】信州で暮らす久喜雄司に起きた二つの出来事。ひとつは久喜家代々の墓石が、何者かによって破壊されたこと。もうひとつは、今は亡き者の日記が届いたことだった。久喜家に届けられた日記は、太平洋戦争末期に命を落とした雄司の大伯父・久喜貞市の遺品で、そこには異様なほどの生への執着が記されていた。そして日記が届いた日を境に、久喜家の周辺では不可解な出来事が起こり始める。貞市と共に従軍し戦後復員した藤村の家の消失、日記を発見した新聞記者の狂乱、雄司の祖父・保の失踪。さらに日記には、誰も書いた覚えのない文章が出現していた。「ヒクイドリヲクウ ビミナリ」雄司は妻の夕里子とともに超常現象に造詣のある北斗総一郎に頼ることにするが……。(Amazon引用)
『横溝正史ミステリ&ホラー大賞(元日本ホラー小説大賞)』といえば、2025年現在で、ホラー小説の新人賞として最も格式高い印象がある。
角川が主催しているので、受賞作が文庫化されると、角川ホラー文庫レーベルで刊行される。
私は角川ホラー文庫によって小説愛を育んできたので、個人的に思い入れが強い。
『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』の貴志祐介、『ぼぎわんが、来る』の澤村伊智など、怪物作家を多数輩出しており、ホラー界隈に多大な貢献をしている素晴らしい文学新人賞だ。
年一回開催される本賞は、いくつかの部門に賞が分かれているが、最も評価の高い大賞に関しては、該当作品なしの回も多い。
作家に求められるレベルが高い賞なのだ。
そのため、大賞受賞した本作にはかなりの期待を持って読むに至った。
冒頭の掴みが最高だった。
ある日突然、田舎町に住む主人公の久喜雄司の家の墓が破壊される。
なかなか不吉なトラブルで、先の展開に不穏さを匂わせる。
同時期に、戦争で命を落としたはずの大叔父の日記が届く。
大叔父は、戦時中、東南アジアのパプアニューギニアに送り込まれていた。
アメリカが物資の補給路を断つ作戦に苦しめられ、日本軍は食糧難や、マラリアなどの感染症により、多くの命を落とした酷い戦場。
そんな大叔父はマラリアにかかり、日に日に衰弱していく様子が、日記に生々しく描かれる。
日記の後半にはヒクイドリを喰おうとする記述が出てくる。
マラリアで命を落としかけてる状況にも関わらず、なぜか大叔父はヒクイドリに執着する記述が印象的に記される。
そして、日記の最後の日に書かれた『ヒクイドリヲ クウ ビミ ナリ』の言葉の意味は何なのか。
この2つの出来事以降、久喜家には怪異に襲われる。
掴み、完璧すぎじゃないだろうか。
パプアニューギニアという謎に満ちた土地や、人里離れた田舎町という舞台が、発生する怪異に妙な説得力を与える。
終盤の絶望感が最高だった。
中盤までは怪異に襲われ、専門家に助けを求めるといった『リング』や『ぼぎわんが、来る』のような雛形的なストーリー進行を見せる。
だが、中盤以降、本作の味となるぶっ飛び展開が主人公たちを襲う。
ネタバレになるので詳細は伏せるが、終盤はどこかテレビアニメ版の続編で、シリーズ最終章の『新世紀エヴァンゲリオン air/まごころを君に』を思わせた。
作者は特に意識していないとは思うが、どこか懐かしさを感じられて良かった。
独特の喪失感、絶望感、しかし希望は微かに残っているような感じが旧エヴァ世代である私にはたまらない。
微妙だった点としては、怪異のルールが不明瞭だったこと。
明確なルールを提示していないので、中盤以降で唐突に起きるぶっ飛んだ現象の数々を、自分の頭の中でどう理屈づけていいか分からず、楽しみづらかった。
また、ルールが提示されないと、この先どんな展開が起きるのかが想像しづらいので、ワクワク感も生まれない。
後、結局ヒクイドリがどんな意味を持つのかよくわからなかった。
恐らくは比喩なんだろうが、答えを知りたい。
とはいえ、角川ホラー小説らしいオチは好みだったし、満足度は高い。
中盤以降、かなりクセのある展開に舵を切るので小説初心者にはおすすめしづらい。
『ぼぎわんが、来る』みたいな怖いし、楽しいし、わかりやすい、といった万人受けする超絶エンターテイメントではない。
角川ホラー小説好きは間違いなく好きだろう。
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