■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「若さゆえの精神性の脆さ」
【小説】破局のレビュー、批評、評価
第163回芥川龍之介賞を受賞した2020年7月4日刊行の遠野遥著の青春小説。
【あらすじ】充実したキャンパスライフ、堅実な将来設計、そして新たな恋――。肉体も人生も、潔癖なまでに鍛え上げた私に、やがて訪れた破局とは。(Amazon引用)
自作の小説を添削してくれる先生に、キャラ作りの参考図書として本作をあげてくれたので読むに至った。
今回、先生に添削いただき、指摘されたのが、主人公の性格設定の甘さについて。
そのアドバイスにあたり、引用して解説してくれたのが『破局』の主人公だ。
恩師の佐々木に頼まれ、高校のラグビー部のコーチを務める大学3年生の陽介はこの年代の男性らしい性的な活発さを持つ健康優良児。
陽介の二人の女性の間に揺れ、心理武装をして何とかしのいでいく様が滑稽に描かれる。
先生の言う通りキャラクターがめちゃくちゃ魅力的。
陽介は女子が大好き。
自分好みの女子を見つけるたびに、本能のままに女子を観察し、あげくには適当な理由付けで概念的にも肉体的にも接触を図ったりする。
犯罪者とまではいかないが、20代前半の男ってこういうもんだよなーと、20代前半の男を経験した私は強く共感をした。
また心理武装をするにあたって親が出てくるのも印象的。
親がこう言ったから俺はこうする、とか。
まだまだ精神が未成熟で、自分の決断に責任を持ちきれないし、確信も得られない微妙な時期に、自分より目上の人の言葉を借りて心の安寧を図る心理がめちゃくちゃ生々しい。
これって誰でも経験があるのではないか。
私も20代の時ほどではないが、今もたまに、人の言葉を使って結論を後押しすることはある。
何が正しいか分からない時って、自分より人生経験のありそうな人に縋りたくなる。
今でこそ、自分を信頼しすぎず、いつでも上書きできる余地を持った仮説程度の結論を出して放置できるくらいの精神的な余裕はある。
だが、20代の頃は、正解か不正解かの0、100信仰が強かった。
とにかく今自分が直面する問題の結論がハッキリできないと落ち着けない。
私はそうだったが、あなたはどうだろうか?
本当は結論の信頼度は50とか70でとどめ、とりあえず放置しておく、といったことをしてもいい。
時期が来れば必ず信頼度の高い結論を導き出せるから。
そして、結論の精度が100になることは絶対にない。
時代とともに人の価値感や考えが移り変わり、それに伴い正解も変わっていく。
この主人公の解像度の高さは素晴らしいし、芥川賞を受賞したのは納得。
読みやすさもいい。
著者はリーダビリティにこだわって執筆したらしく、おかげでサクサク読み進められた。
ページ数も少ないし、人によっては数時間で読み切れるだろう。
しかしKindleでは本編はわずか100ページちょっと。
この少ないページ数でこれだけ濃厚な物語を描けるのはさすがだと思った。
本作をきっかけに芥川賞作品に強く興味を持たせてくれた。
芥川賞は短編・中編が対象なので、サクッと読み切れるのがいい。
話を戻すが純文学らしく、難解さはある。
個人的には読み応えがあるので好きだが、エンタメ小説とは違って、主人公の言動や心の声の意図など、ハッキリ描かれていない部分が多い。
やっぱり芥川賞作品は好き嫌い問わず、人間に強い関心がある人でないと楽しみづらい気がする。
不明瞭な部分は本著の最後に倉本さおりさんという方が解説してくれているので、理解が深まって面白かった。
エンタメばかり読んでいたが、この手の人間の内面を深くえぐってくる純文学は読み応えがあって読後の満足度が高い。
先生には他にも課題図書として『影裏』『猛スピードで母は』『コンビニ人間』などを紹介してもらったので、読むのが楽しみ。
来月の2025年12月11日に、ようやく発表される直木賞候補作品を読み漁るフェーズに、私は突入する。
それまでは純文学を心ゆくまで楽しんでいきたい。
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