■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「閉鎖的コミュニティを抜け出したい思いが持つ力は強大」
【小説】万事快調〈オール・グリーンズ〉のレビュー、批評、評価
波木銅による2021年7月5日刊行の青春小説。
【あらすじ】主人公は北関東の“クソ田舎”の工業高校に通う朴秀美。
地元の閉塞感や機能不全を起こした家族に絶望し、
ヒップホップとSF小説を心の逃げ場としていた彼女は、
ある出来事を機に〈違法植物の種〉を入手する。
これがあれば今の状況から逃げ出せるかもしれない――。
そう考えた朴は似たような境遇のクラスメイトたちと、
学校の屋上で違法植物を育て売り捌く計画を始める。
はじめは順調に思えた彼女たちの“ビジネス”だが、
危険は静かに迫り――。 (Amazon引用)
2026年1月に実写映画の劇場公開に先立って読むに至った。
まったくの無知な作家の無知な作品で、前情報は皆無。
本作は松本清張賞という新人賞を獲得している。
松本清張賞といえば、2026年1月15日に発表される直木賞候補作品の一つ『白鷺立つ』が同賞を受賞している。
元々生理小説、歴史小説を対象とする新人賞の松本清張賞は2004年以降、ジャンルを撤廃し、広義の長編エンターテイメント小説を募集している。
歴史仏教小説『白鷺立つ』は今私が読んでいてまだどんな作品かわからないが、直木賞候補になるくらいの重厚なドラマが描かれるのだと推測している。
そんな作品と、同じ入り口の作品なので、それなりの期待を持って読むに至った。
口語調の軽快な文体が良い。
1700年代を舞台とする『白鷺立つ』に対して、本作は現代劇かつ、女子高校生が主役でまるで真逆な設定。
イケイケな主人公が繰り出す口語調はドライブ感がある軽快な文体なので、個人的にはかなり好き。
口語調文体は優れた作品が多い。
愛する母が生き埋めにされ、犯人を追いかける息子の医者を描く『煙か土か食い物』、
犯罪者のレッテルを貼られ自ら命を落とした友人の無念を晴らすために真実を探る女子高校生を描く『自由研究に向かない殺人』、
記憶喪失の男を描くSFものの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』など。
口語は扱い方によっては稚拙に思える文体だが、本作はそうはなっていない。
茨城県の田舎町に住む主人公の朴秀美は高校生活は友達が少なく孤立している。
放課後には東海村サイファーちょっと休みに参加しフリーラップバトルに明け暮れるラッパーとしての裏の顔を持つ。
作者がラップが心底好きなのか、文章の語彙のレパートリーが巧みで読んでいて面白い。
何度も『こういうシチュエーションでこの表現をしてくるか』と唸ったフレーズがあり、かなり好みの文体だった。
好戦的でパワフルなキャラクターが多いので意表を突く挑発的なセリフも多くて最高。
とはいえ、読みづらさもある。
構成に難があり、冗長なエピソードがいくつもある。
例えば朴の仲間の岩隈が敬愛する少女漫画家の大島弓子について熱く語るシーンや、朴一家のボウリングシーンなど。
物語の主題との関連が見えず、何のために描かれているのがわからないダラダラシーンがかなり多く、その都度、集中力を削がれた。
恐らく、メインストーリーに問題があり。
朴とその仲間たちが金を得て退屈な村を脱出するため、違法の植物を育てて売ることがメインストーリーで、それ自体に大して見どころを作れないため。
だって植物は水をやって日光を当てて放置するだけだから。
園芸同好会という名目で学校の屋上で作っているのに、なぜか先生たちは見に来ないので、育てる過程でのいざこざはほとんど描かれない。
女子高校生版『ブレイキング・バッド』をイメージしたストーリーだが、物語を膨らませるため、サイドストーリーを多めに描かざるを得なくなった印象。
無駄なのエピソードが多くなっている。
通が好みそうな映画を引用して説明するシーンが多すぎてうざい。
ひどい時で1ページにつき、1、2タイトル、映画について言及するので辟易する。
ストーリーやキャラを伝えるのではなく、映画を語る目的で描いている作者の思惑が透けて見えるのが拙く見える。
あるいはタランティーノ監督の映画に通ずる無関係なダラダラしたユーモア会話のシーンに影響されているのか。
そもそも女子高校生たちがみんな通好みの映画を観てまくってるのに違和感を覚える。
せめて1人にしてほしい。
みんながみんな映画を語るので作者が陰が見えて没入の邪魔になる。
フィクションはいかに作者の影を殺し、黒子に徹するかが個人的には美学なので。
そんなに自分のことを書きたいなら私小説として書いてほしいところ。
視点のブレが読みづらさもある。
一つの章で視点人物がコロコロ変わる。
そのため描かれる内面描写が誰の内面を示しているのかを理解するのに、何度も前に戻って読み直す、と言ったことを繰り返した。
視点のブレって新人賞ではご法度と聞く。
それでも受賞したのは一番最初に伝えた文章と、キャラの魅力がある。
本作は能動的でユーモアなキャラクターが多い。
なので、読みづらくてもついつい頑張って読み進めたくなる。
後は名作映画の名シーンのオマージュが挿入されている面白さもある。
例えばタランティーノ監督作品の『イングロリアス・バスターズ』の冒頭の地下収納に隠れるシーンを、朴がとある人物から逃げ帰った時、コメディタッチにオマージュで描かれていて面白かった。
だいぶ粗のある新人らしい作品だけど、読み応えはある良作だった。
野心やエネルギーを強く感じられるフレッシュさが好み。
口語調のドライブ感のある文体とユーモラスなセリフが面白いおすすめ作品はコチラ。
■プロジェクト・ヘイル・メアリー
■自由研究には向かない殺人


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