小説『深淵のテレパス』ネタバレなしの感想。『変な怪談』を聞いた女性の日常が怪異に蝕まれる

エンタメ小説

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「超常現象にはロマンがある」

【小説】深淵のテレパスのレビュー、批評、評価

創元ホラー長編賞受賞作。
『このホラーがすごい!2025年版』で1位を獲得。
上條一輝による2024年8月16日刊行のホラー小説。

【あらすじ】「変な怪談を聞きに行きませんか?」会社の部下に誘われた大学のオカルト研究会のイベントで、とある怪談を聞いた日を境に高山カレンの日常は怪現象に蝕まれることとなる。暗闇から響く湿り気のある異音、ドブ川のような異臭、足跡の形をした汚水――あの時聞いた”変な怪談”をなぞるかのような現象に追い詰められたカレンは、藁にもすがる思いで「あしや超常現象調査」の二人組に助けを求めるが……。(Amazon引用)

昨年の夏に刊行されたムック本『このホラーがすごい!2024年版』で1位を獲得した小田雅久仁著『禍』は読了済で、なかなか好みだった。
髪や口、耳、鼻といった人間の体の一部を題材に、何気ない日常を送るキャラクターたちが些細なきっかけで不気味な世界に踏み入れてしまう短編集。
ジャンルはホラーというかダークファンタジー寄りの空気感で、最も近いものはドラマ『世にも奇妙な物語』だろう。
短編なので、長編と比べると読後感にやや物足りなさはあるものの、作者のユニークな想像力に触れられ、作家志望の私としてはクリエイティビティをぐさぐさと刺激する楽しい読書体験だった。
対して、本作は正統派のややコメディよりのホラー小説だった。

キャラクターが魅力的。
ブラック企業に勤め、仕事に対してモチベーションは皆無の20代の冴えない男、越野が視点人物。
直属の上司でモデルのようにすらっとしたスタイルに、誰もが羨む美貌を持つ芦屋晴子は、超常現象に興味津々。
カメラに詳しい越野は晴子に撮影と編集作業を押し付けられ、仕方なく超常現象を調査し、YouTuber『あしや超常現象捜査』として動画を作ることになる。

晴子のやけに男臭い口調や性格と、無気力男子の越野の対比がユニークで面白いのだ。
特に晴子の超常現象に対する執着は人並みを外れており、多くの協力者を巻き込むエネルギーに、読者の私も吸い込まれていった。
やっぱりパワフルなキャラクターって、それだけで読者を魅了し、応援したくなるもの。

また、晴子は越野よりも仕事に対し、熱量は少ない。
だが仕事はできる。
越野視点でいえば、越野に寄り添ってくれつつ、でも仕事ができるというコミュ力の高さ、能力の高さは尊敬に値する。
さらには晴子は副社長からいじめられる越野の本質を見抜き、越野すらも自覚していない隠された能力を評価する。
晴子のような上司がいたら、部下は幸せ者だ。

越野もただダメなやつではなく、見せ場もちゃんと用意されている。
越野のような平凡なキャラクターがいるからこそ、晴子を始めとする周りの一風変わったキャラたちが活かされている。
癖のあるキャラが多く登場するので直接、読んで確かめてもらいたい。

著者曰く、近くのホラー作品は、心霊現象に前のめりのおじさんとそれに振り回される若い女性のコンビがほとんどなので、その真逆を狙い、無気力な越野、快活な晴子のコンビが生まれたそう。
確かにホラー映画監督、白石晃士の『戦慄怪奇ファイルコワすぎ』シリーズはもろにそうだ。

部活感が最高。
晴子も越野も宣伝会社の社員。
そのため、仕事終わりにYouTuber『あしや超常現象捜査』の活動を行う。
この部活感が個人的にはものすごく好き。
社会人の私からすると部活って憧れる。
ある種のモラトリアム感に浸れるのだろうと思う。
社会人は日々、仕事に追われて肉体的にも精神的にも消耗している。
だから、部活的な活動のような現実から離れることをどこか望んでいる。
また漫画『GANTZ』では、昼間は学校に行き、夜になると星人を倒す二重生活を送る。
本作も日常と地続きでぶっ飛んだことを行うっていうのが、読者を自然に物語の世界に運んでくれるのだ。

斜め上を行く展開もいい。
晴子や越野、その協力者たちは、仮説を立てながら、調査を進めていく。
『恐らくこういうことだろう』といった推測はことごとく裏切られ、最終的には思ってもいなかったピンチに蝕まれる。

ホラーとして特別新しい要素はない。
でも魅力的な設定、キャラクターが繰り広げる超能力検証とそれに伴うトラブルに奮闘する展開には釘付けになった。
勢いあまって『あしや超常現象捜査』2作目の『ポルターガイストの囚人』も読み始めている。
めっちゃ楽しい。
絶対に映像化してほしい。

キャラクターの魅力全開のおすすめ作品はコチラ。

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深淵のテレパスの作品情報

■著者:上條一輝
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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