小説『コンビニ人間』ネタバレなしの感想。コンビニでしか生きられない女性を描く

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■評価:★★★★☆4.5
■読みやすさ:★★★★☆3.5

「私を人間にしてくれるものにすがったっていいじゃないか」

【小説】コンビニ人間のレビュー、批評、評価

『授乳』『信仰』『消滅世界』『世界99』の村田沙耶香による2016年7月27日刊行の純文学小説。

【あらすじ】36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。
ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。(Amazon引用)

コンビニという悪しき日本教育の縮図に食われる様が面白い。
36歳の中年女性の古倉恵子は強烈な個性に悩まされ、幼稚園や小学校では浮いていた存在。
そんな彼女がコンビニの研修を受けることで、無個性の人間へと仕立て上げられていく。
彼女はそれを面白く感じているのが興味深い。

子供の頃から共感性が著しく乏しく、奇行に思える行動を連発する娘の恵子に対し、
親は「なんで恵子には分からないんだろうね」と嘆くしかなかった。
恵子も悩む。
普通の感覚も、それを身につける術も分からない。
『変わった自分』を一般社会になじむような無個性な人間への的確かつ具体的な教育を、今までの人生で誰もしてくれなかったから。

しかし、コンビニではより具体的に無個性の人間になる術を教えてくれる。
こういうときはこうする、といった完璧なマニュアルが存在するから。

彼女はコンビニを通じて初めて普通の社会との繋がりを初めて得た。
彼女は心の底から安心する。
コンビニなら、私は世界の歯車として生きていけると。

非常に興味深い感覚。
面白いのが、普通の物語だと個性を尊重するストーリーを描きがち。
しかし本作はあくま無個性になるため、自分で自分の杭を打ちにいく展開が目新しい。

コンビニという世界観の解像度が凄まじい。
本作は恐らく、物語の前半部分までは著者そのものをキャラに反映させた私小説的な描き方をしていると思える。
中盤に現れる白羽というキャラが出てきて、その後の展開は現実離れしていてフィクション感が強くなる。
そのため、個人的には中盤までがとてつもなく面白かった。

余談だが、私の以前の職場の同僚が、著者の村田沙耶香さんのコンビニバイトの同僚だった。
真偽は不明だし、コンビニの場所の詳細は伏せるが、村田さんの働いていたコンビニは場所柄、個性的な客がかなり多く来店する。
普通のコンビニと比べ、トラブルが多そうな場所なので、
店員としててんやわんやする日々が、より社会との繋がりを強く感じられたのだろうか。

コンビニ店員として働く自分はなぜコンビニに自分の居場所を感じたのか、村田さんは思考と反論を繰り返したのだろう。
そして出た回答を本作で提示している。
そのため、自分の居場所であるコンビニという世界観のディティールがえげつない。
音によって反射的に動くことで、無意識にコンビニ店員としての仕事を全うする。
客のコンビニ内での動きを見て、求めることも前もって察知する。
コンビニを通じてこういった感覚を鍛えられたことが、社会との繋がりを感じさせてくれ、安堵に繋がった。
自分はこの社会で生きてもいい、と判を押された感覚になったのではないか。

その反面、コンビニの恐ろしさを痛感する。
ある種、戦争における戦士の作り方にも共通している。
戦場では、銃で撃って人の命を奪わなければならない。
一般的な家族の下で育ち、一般的な教育を受けたまともな倫理観を持つ普通の人は、簡単に人に手を下せない。
そのため、ルール(ルーティン)を繰り返し、体に叩き込むことによって無意識で人を銃を撃てる体に仕立てる。
イチローがバッターボックスに立つ前から、立った時に行う動作の決め事のようなこと。
古倉恵子がコンビニ内の音に反応し、個性を追いやり、無意識に『普通の人間』として動いて接客する様は彼女からしたら嬉しいが、
読者からするとまさに完璧な『コンビニ人間』が製造されていて怖くなる。
戦争と同じく、まさかコンビニが人の魂を奪っているとは。
描く切り口が斬新すぎる。
さすがは芥川賞作品。

気になったところは、古倉のキャラが後半に向かうについてキャラ変するのは違和感。
食事を餌と呼んだり。
食べ物の味にこだわりがなくなったり。
作者が書きながらどんどん乗ってきて、キャラに色を足していった印象。

後半の違和感をありつつ、
よく見かける個性的なキャラクターが個性を尊重するありきたりなストーリーとは一線を画しており、めちゃくちゃ面白かった。
キング・オブ・純文学。
少し前に読んだ『消滅世界』の出来とは雲泥の差。

共感を超越したぶっ飛んだ主人公が魅力的なおすすめ作品はコチラ。

■Nの逸脱

■テスカトリポカ

■小銭をかぞえる

■虚の伽藍

コンビニ人間の作品情報

■著者:村田沙耶香
■Wikipedia:コンビニ人間
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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