■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3
「己の思いを貫くことの難しさ、道理のままに行かぬ割り切れなさ」
【小説】木挽町のあだ討ちのレビュー、批評、評価
『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』『女人入眼』の永井紗耶子による2023年1月18日刊行の時代小説。
第169回直木三十五賞、第36回山本周五郎賞を受賞。
【あらすじ】ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親の命を奪った下男を斬り、首を高くかかげた快挙はたくさんの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者だというひとりの侍が仇討ちの顚末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。(Amazon引用)
扱いとしては長編小説だが、読んだ印象としては連作短編集だった。
菊之助という武士が、父親の命を奪ったギャンブル狂いの博徒、作兵衛の仇討ちを果たす事件が、現場となった木挽町で語り草となっている。
とある視点人物が、菊之助の仇討ちに関わったとされる芝居小屋で働く4人に接触し、仇討ちの真相を探っていくていの話。
ていというのがポイントであり、一見、仇討ちの真相の謎解きをしていくミステリー仕立てだが、あくまで本作は、菊之助含めた仇討ちに関わる4人の内面を描いたドラマである。
章ごとに4人のそれぞれの境遇が回想ベースで描かれる。
なぜ、彼らは江戸時代では悪所とされる芝居小屋にたどりついたのか。
じっくりと描写される境遇それ自体は、木挽町の仇討ちの謎とは無関係。
そのため読んでいて冗長だった。
仇討ちとは無関係と思えるのに、なぜかつらつら描かれるので、私は一体何を読まされているのかと。
なぜこの境遇が長々と描かれるのか。
それは本作のテーマを一貫して描こうとしているため。
本作の最後の方で明かされる、
『己の思いを貫くことの難しさ、道理のままに行かぬ割り切れなさ』を菊之助含めた5人は耐えしのぎ、芝居小屋にたどり着いた。
なぜ仇討ちを彼らは協力的になったのかは、ネタバレになるので直接読んで確かめてもらいたい。
長編として読むと、木挽町の仇討ちとの関連のなさにダラダラさがあるが、連作短編集として読むと、それぞれの編の主人公の境遇がテーマとして一貫している。
それぞれの話が独立した、でもそれぞれに仇討ちというわずかな共通項がある連作短編集として読むことをおすすめする。
仇討ちが興味深い。
まさか、人の命を奪う行為が合法だった時代があったというのが驚き。
もちろん条件やルールは厳格だ。
武士という身分の高いものでしかできないし、父親の命が奪われたなどの正当な理由も必要。
また、仇討ちを達成しないと故郷に帰れない強制力もある。
どんな制約でがんじがらめだろうと、人の命を奪っていい荒くれた時代で生まれなくて良かった。
本作は仇討ちの恐さそのものには注目して描かれていないので、仇討ちシステムはまだまだエンタメとしての可能性を感じる。
『パージ』というハリウッド映画のシリーズもあるにはある。
これは1年に一度、特定の時間帯で犯罪し放題という設定だが、国民全員が犯罪できる対象の緩さに、緊迫感がやや欠ける。
やはり仇討ちのようなルールで制限されたリスクの伴うスリルが欲しい。
読みづらさはある。
それぞれの視点キャラクターは芝居小屋で専門職についている。
木戸芸人や女形の役者、小道具、殺陣の先生。
特に章が始まる冒頭はそれぞれの専門職であったり、後は江戸時代ならではの聞き馴染みのない単語が頻繁に出てくる。
また、現代語にはかなり寄せては居るんだろうけど、古い口調も相まって、時代小説に読み慣れていない私からするとカロリー消費は普通の小説の1.5倍増だった。
とはいえ、読者を世界観に巻き込むための読みづらさは歓迎するタイプなので、個人的には問題なし。
あまりツボではなかった。
確かに仇討ちという題材は、本作のドラマを描くのに必然性はある。
でも描かれるテーマ自体は普遍的だし、いい小説だとは思うけど、直木賞を取るほどとは思えなかった。
本作は直木賞の審査員から絶賛されて受賞しているので、私の読む力が不足しているだけかもしれない。
2026年1月に直木賞を獲得した『カフェーの通り道』のほうが個人的には圧倒的に響いた。
とはいえ本作も読み応えがある小説なので、多くの人にはおすすめしたい。
大義名分のもと、情熱を持って駆け抜ける主人公のおすすめ作品はコチラ。
■神都の証人
■白鷺立つ
■虚の伽藍
■成瀬は天下を取りにいく

コメント