■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「正義には人生を賭す価値がある」
【小説】神都の証人のレビュー、批評、評価
『雪冤』『罪火』の大門剛明による2025年7月2日刊行のリーガルミステリー小説。
2026年1月14日(水)発表予定の、第174回直木賞候補作。
【あらすじ】昭和18年。戦時下、「神都」と称される伊勢で、弁護士の吾妻太一は苦悩していた。
官憲による人権侵害がはびこり、司法は死んだも同然。
弁護士は正業にあらずと、子どもたちにさえ蔑まれていた。
だが、一人の少女・波子との出会いが、吾妻の運命を変える。
彼女の父は、一家惨殺事件で死刑判決を受けた囚人だった。
「お父ちゃんを助けて」
波子の訴えを受け、吾妻は究極の手段に打って出る。
無罪の証拠を得るため、自らも犯罪者として裁かれる覚悟をして――。
だがそれは、長い戦いの始まりに過ぎなかった。(Amazon引用)
メインストーリーは冤罪で極刑判決が下された人物を救い出すストーリー。
正直、冤罪という題材の時点であまり期待を持てなかった。
冤罪ものはすでに多くの名作が存在するため。
映画の『それでも僕はやっていない』は痴漢冤罪で逮捕、起訴された青年が弁護士や協力者である市民団体とともに立ち向かっていくストーリー。
実際の事件をモデルにしており、この事件や本作をきっかけに、世の中のオヂたちは痴漢冤罪に恐怖を覚え、満員電車の際はみんな頑張って両手を上げて乗るようになった。
他にもネタバレに触れるためにタイトル明かせないが、ドキュメンタリー本で何冊か冤罪物の傑作は存在する。
本作もよくある冤罪ものの雛形ストーリーを辿ると思いきや、予想外のスケール感で描かれる。
どのように描かれるのかは伏せておくので、実際に読んで驚きと興奮を楽しんでもらいたい。
キャラクターがとんでもなく魅力的。
視点人物の一人、吾妻太一の行動には驚かされた。
吾妻太一は弁護士で、真面目で礼儀正しい人物。
面白みに欠ける退屈な優等生。
しかし世の中は理不尽で溢れている。
少女、波子の父親は無実にもかかわらず、3人もの命を奪う凶悪犯として逮捕され、極刑宣告される。
ただただ真っ当な正義感のみで生きてきた吾妻は、理不尽で残酷な社会に到底太刀打ちできない。
四方八方を塞がれ、極限状態の吾妻は、どんな選択を取るのか。
私はそのシーンを目の当たりにしたとき、思わず笑って、立ち上がって背伸びをした。
私は確信した。
作者はかましてきてると。
おそらくこの後も何かしら仕掛けてくると。
その予想は的中する。
強大な変化を遂げた吾妻は魅力的だが、
私はもう一人の視点人物である本郷辰治に最も強く魅了された。
19歳の船乗りの辰治は、仕事には遅刻するし、女好きの博打好きでしょうもない人物。
本作は冤罪を扱うストーリーなので、堅苦しい内容を想像していたのだが、
型破りで自由奔放な辰治は、いちいち斜め上を行くセリフをかましてしてくるので面白い。
マインド強者なので、行動もパワフル。
どんな困難に襲われようと絶対に諦めない。
例え、周りの全員が諦めムードを漂わせようと無視。
何がなんでもやってやる、の気迫でポジティブに前を見続ける。
辰治を追っているだけで元気がもらえた。
昭和が舞台ということもあるが、辰治は今のコンプラでがんじがらめな窮屈さをぶち壊してくれる爽快感がある。
伴って、地の文のドライブ感が強く、普通の人ならためらう一歩を楽々と踏み込み、場をかき乱すテンポの良さがたまらない。
辰治はとんでもなく魅力的で、小説書きの私からすると辰治のような読者を上げてくれるキャラクターを生み出したいと心から思った。
残念だったのは、ラストに向かうにつれてミステリーになってしまったこと。
キャラクターの感情や心境の変化や描き続けたドラマが魅力的だったのに。
ミステリーは読者に驚きを与えることが目的であるため、ドラマ性が代償になる印象がある。
なので、ドラマ重視で最後まで突っ走って欲しかった。
とは言え、500ページという大ボリュームだが、文量あればあるほど盛り上がる構造になっているので存分に楽しめた。
キャラクターも魅力的なので元気が欲しい時に再読したい。
本作を読んだ時点で『白鷺立つ』よりも直木賞が近いと思った。
だが本作が取るのは難しいだろう。
次に読んだ作品はまるで2025年のM−1グランプリでたくろうを目の当たりした圧倒さがあったから。
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