小説『ザ・ロイヤルファミリー』ネタバレなしの感想。馬主とその家族の20年を描く

エンタメ小説

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「人間にとっても馬にとっても継承して生きながらえる」

【小説】ザ・ロイヤルファミリーのレビュー、批評、評価

『イノセント・デイズ』『店長がバカすぎて』『アルプス席の母』『八月の母』の早見和真による2019年10月30日刊行のドラマ小説。

【あらすじ】お前に一つだけ伝えておく。絶対に俺を裏切るな――。父を亡くし、空虚な心を持て余した税理士の栗須栄治はビギナーズラックで当てた馬券を縁に、人材派遣会社「ロイヤルヒューマン」のワンマン社長・山王耕造の秘書として働くことに。競馬に熱中し、〈ロイヤル〉の名を冠した馬の勝利を求める山王と共に有馬記念を目指し……。馬主とその家族の20年間を描く圧巻のエンターテインメント長編!(Amazon引用)

『VIVANT』『半沢直樹』など、話題作を連発するテレビ局のTBSの日曜劇場の枠で2025年10月12日から、本作を原作とするドラマが放送されると聞いて読むに至った。

本作はあまり期待してなかった。
以前、同著者による『イノセント・デイズ』という、極刑囚の女性の回想の小説を読んでいる。
個人的にはあまりに好みでないシナリオだった。
極刑囚の女性がいかにして人の命を奪う人の道を踏み外すに至ったのか、を描く回想劇。
そもそも回想劇が好きではない。
私は小説を書いており、『イノセントデイズ』は、私の次作のプロットの添削をしてくれた先生が、キャラクター作りの参考にとおすすめしていただいたために読んだ。(シナリオでなく)

読者は、時制か現在のキャラクターに何が起こり、どう対処し、どう変化・成長を遂げるのか、に興味があるもの。 
回想は主人公が過去にすでに起きたことなので、どんなに大変な出来事に遭遇しようと、意表をつく変化も成長も決断もない。
そのため感情が揺れづらい。
また、『イノセントデイズ』はテーマもシナリオも新しさがない。
他の作品にこすられたような内容を、より扇情的に描くことに力を注いでる感が否めなかった。

私は例えば『テスカトリポカ』『Nの逸脱』『ぼぎわんが来る』のような読者の裏をかく挑発的なストーリー、あるいは見たことのない世界観でとんでもないことやってのける驚きのあるパワフルな作品が好み。
本作の著者は斬新なモノを作ろう、という意識や気概とは無縁の正反対の属性の作家に思え、『ザ・ロイヤルファミリー』への期待値は低めだった。
それでも名前は聞いたことあるし、山本周五郎賞も受賞しているので興味があって読んだ。

結論、悪くなかった。
まず競馬の馬主を視点で描く設定が新しかった。
競馬と聞くと、真っ先に賭ける側を想像する。
あるいはジョッキー。
だが本作は競馬というビジネスの中でも、読者が共感しづらい金持ちの特権ポジション、馬主を描く。
とはいえ、主人公は馬主である山王社長のマネージャーである。
競馬を通じて、山王の家族と、彼が持つ馬の継承をテーマにしている。

正直、継承のテーマはやっぱり普遍的だし、すでに多くの物語で描かれ済み。

展開もやはり、『イノセント・デイズ』同様に先が読めるもので、こうやったら美しいなぁ、と思った方向にことごとく進む美しくなさ。
でも最後まで読み終わったらグッとくる。
作者が丁寧にキャラクターを描くことに成功したのに加え、我々人間が根源的に持つ欲求に訴えるから。

本作で一番違和感を覚えたのは、都合の悪い真実をことごとく避けているところ。
本作では、早くて優秀な馬にピントを合わせて継承のテーマを美しく照らす。
では、戦力外の馬たちの末路はどうなるのか。
あるいは現役を終えた一線級未満の馬たちは果たして幸せなのか。

一応、読者に突っ込まれないように言及はしている。
だが実際に何が起きているかの描写は皆無。
数多の情念が渦巻く競馬の裏側まで、腹をくくって描いてほしかった。
醜い部分を顕にし、読者の心に訴えることに成功したら、怪物小説になっていたと思う。

本作が直木賞の候補にも上がらなかったことに納得。
ただ悪い小説ではないので、本屋大賞好きにはおすすめしたい。

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ザ・ロイヤルファミリーの作品情報

■著者:早見和真
■Wikipedia:ザ・ロイヤルファミリー
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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