小説『女王様の電話番』ネタバレなしの感想。憧れの女王様が失踪する

エンタメ小説

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆4

「孤独を飼い慣らすという幸福」

【小説】女王様の電話番のレビュー、批評、評価

『ラメルノエリキサ』の渡辺優による2025年8月26日刊行のミステリー小説。
2026年1月14日発表の直木賞候補作品。

【あらすじ】主人公の志川は、新卒で就職した不動産会社を辞め、現在、夜の女王様をデリバリーするお店の電話番をしている。友達には「そんな職業は辞めたら?」と眉をひそめられたが、女王様の中でも美織さんという最高に素敵な人に出会い、そこそこ幸せに暮らしていた。ある日、あこがれの美織さんと初めてごはんを食べに行く約束をして舞い上がるものの、当日にドタキャン。そのまま音信不通になってしまう。(Amazon引用)

キャッチーかつ、パッと見ではどんな内容なのか分かりづらいユニークなタイトルが目を惹く。
本作は夜の女王様を派遣する電話対応の仕事をする主人公の話。

主人公の内面描写が緻密に描かれていて、女性作家らしさを感じた。

本作を手に取るまでに読了した今回の直木賞候補作品の3作品、『白鷺立つ』『神都の証人』『家族』はすべて男性作家によるもの。
男性作家らしさなのか、無駄は一切そぎ落とされ、必要な情報のみで描かれた印象があり、サクサクと読み進められた印象。

対して本作は内面描写が丁寧に描かれるので、主人公のそのときの心情や心境の変化が生々しく伝わってきた。
やや冗長にも思えたが、個人的にはキャラが抱える葛藤の重みが伝わってくるので、キャラの実在感を得られて好みだった。
マイノリティなセクシャルであるアセクシャルという繊細なテーマを使ってるので、親和性の高い文体。

アセクシャル描写について。
そもそも夜の女王嬢の電話番の業界の描き方については、特に面白みは描かれない。
想像だけで作り上げられるレベルのもので、恐らく作者は取材もしていないだろう。
作者が描きたいアセクシャルのキャラクターの葛藤をより顕著に描くために夜の女王嬢の電話番という職業を扱ったに過ぎない印象。

アセクシャルは性愛を不要とするセクシャリティを示す。
つまり性行為をせずに愛を感じたい性向。
主人公は性行為に拒絶反応を示すタイプだが、中には仕方なく受け入れられる人もいるそう。
人によって性行為に対する拒絶レベルが存在するのだろう。
そんな主人公は性を売りにする仕事につき、自分とは真逆と思える属性の女王様と交流を重ねることで己が追い込まれ、変化を迎える構造となっている。

ストーリーはかなりシンプル。
主人公が好意を持った女王様の美織がある日、突然、失踪する。
主人公は愛する人を探す過程で、美織の裏の顔を知っていく。
小説はもちろん、映画などでも無数に作られてきた失踪ものの雛形そのものなので、新しさは皆無。

ただし、美織のキャラクターは魅力的。
ネタバレになるので明かせないが、かなり絶妙なキャラクター造形で、あんまり見たことのないタイプで興味深かった。
このような人間が実際するかわからないが、私は美織の生き方には共感できる部分もあった。

主人公の心の声にくどさがある。
やたらとこの世界を表すスーパー●●ワールドにいちいち文句を垂れる。
この主人公はアセクシャルですよ、と定期的に植え付ける目的で、ことあるごとに性的な話題になった時に、「スーパー●●ワールドめ」と敵意を見せる。
さすがにやりすぎてるので、せっかく緻密に描いたキャラの実在感が失われる気がする。

アセクシャルという共感や感情移入の難しい属性のキャラや平凡なストーリーが相まってあまり刺さらない作品だった。
『コンビニ人間』のようにもっと主人公の魅力が強烈だったら良かったと思う。
アセクシャルという題材に作者自身が振り回されているのではないか。
直木賞はなさそう。

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女王様の電話番の作品情報

■著者:渡辺優
■Wikipedia:渡辺優
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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