小説『イクサガミ 天(第一巻)』ネタバレなしの感想。明治11年2月、292人が大金をかけて命を奪い合う

エンタメ小説

■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「殺伐とした明治初頭の面白さ」

【小説】イクサガミ 天(第一巻)のレビュー、批評、評価

『羽州ぼろ鳶組』シリーズ、『童の神』、『八本目の槍』、『じんかん』、『塞王の楯』の今村翔吾による2022年2月15日刊行のアクション歴史小説。

【あらすじ】明治時代の日本が舞台。大金を得る機会を与えるとの怪文書により、明治11年2月に腕に覚えがある292人が深夜の京都・天龍寺に集まった。始まったのは、七つの掟が課せられた奇妙な「遊び」。点数を集めながら、東海道を辿って東京を目指せという。参加者には木札が配られ、1枚につき1点を意味する。点数を稼ぐ手段は、ただ一つ。大金を必要としていた剣客・嵯峨愁二郎は、十二歳の少女・双葉と共に道を進んでいくが、強敵が次々現れる。金か、命か、誇りか。滅びゆく侍たちの死闘が始まる。(Wikipedia引用)

本作は著者がNetflixにドラマ化されるような作品を作りたい、といった構想で執筆した。
実際にNetflixからドラマ化の打診が来て、2025年11月13日に配信予定だ。
いかにも計算通りってな感じなのをYoutubeの何かの動画で意気揚々と語る作者を見て、若干、鼻にはついた。
露骨に自分を誇る人って、どうも人間的な深みに欠けて、作家としての魅力が下がる印象がある。個人的に。
だが、著者は直木賞も獲得するほどの実力派の作家である事実は間違いない。
期待して、彼の作品を初めて読むに至った。

分かりやすいエンタメ性とスピード感。
冒頭1ページ目から、本作でくり広げられるデスゲームの要項が記載された新聞記事が提示され、次のページでは主人公が、その集合場所にいるところから物語が始まる。
タイパが叫ばれる今のご時世らしい展開の速さ。
主人公が参加するデスゲームのルールもシンプルでわかりやすい。
集合場所は京都にある天龍寺。
参加者300人弱が命を奪い合って、ゴールとして設定された東京を目指す。
賞金は金10万(今の価値で換算すると1000億)。

小学生でも猿でも分かる単純明快さ。
他に、もう少し細かいルールがある。
道中に7箇所関門があり、規定された持ち点数に達していないと通れない。
参加者に木札が与えられ、それぞれ1点として換算される。
つまり、能動的に命を奪い合う必要がある。

私は本作で初めて時代小説を読むことになったが、非常に入り込みやすかった。
確かに当時使われていたであろう現代人にはなじみのない言葉も多く出てくる。
親切に、説明してくれている場面も多いのでリーダビリティは悪くない。

だが、個人的には本作は期待外れなところも多かった。

下記の動画でも語っているが、著者は今、漫画から着想を得てることが多いそう。

漫画にクリエイティビティを刺激されるのはいいが、本作は過去の名作漫画の影が見え隠れしすぎる。
つまり既視感が強い。

デスゲームのルールは、少年ジャンプ漫画『HUNTER×HUNTER』のハンター試験編を連想させる。
『HUNTER×HUNTER』におけるハンター試験は、ハンターという勇敢な職業につくための資格試験をさす。
ハンター試験の4次試験では、受験者全員が無人島に放り込まれ、各々バッチを与えられる。
バッジを奪い合い、3日後に規定の点数に達したらクリアとなる。

本作では、関門などのオリジナル設定はあるものの、バッジを奪い合うアイデアがそのまま使われていて引っかかった。

主人公の男、愁二郎のキャラの設定も引っかかる。
愁二郎は元々、孤児で拾ってくれたマイナーな流派の刀の達人の師匠に育てられた。
愁二郎は師匠から刀の技術をたたき込まれ、さらにはとんでもなく強い奥義を持っている。
さらに愁二郎は幕末には人斬りとして暗躍。
冷徹に人を斬り続けていたかが妻との出会いが人間的な心を取り戻した設定。
これも少年ジャンプ漫画『るろうに剣心』の主人公の設定がちらつく。
というかうり二つ。

もう少しアイディアを練ってオリジナリティを出せなかったものか。
あまりに抜け目なくアイディアをそのまま流用するのは違和感を覚えた。

ヒロインである12歳の少女、双葉の置物感は何とかしてほしい。
主人公の愁二郎は20代後半の男。
恐らくは2人のコンビは名作映画『レオン』辺りをイメージしているだろう。
『レオン』は人の命を奪うこと生業とする寡黙な男。
レオンはたまたま、同じマンションに住む少女マチルダの命を救い、2人の交流が始まるストーリー。
双葉はマチルダをイメージしているのだろう。
でもマチルダは明確な目的を持ち、レオンの制止を止めてまで、自分の目標を達成する強烈な自己主張がある。

双葉は基本的にはイエスマンで、愁二郎のどんな提案でも「はい」と答える。
そのせいでキャラが弱く見える。

貫地谷無骨という悪人が出てくる。
愁二郎たちは突如遭遇した敵と戦ってる最中、双葉を逃がす。
戦闘後、双葉とはぐれたため、必死になって探してるとき、最悪の敵である無骨と遭遇。
愁二郎は無骨から逃げようとするときの会話の応酬が下記。
「俺との戦いを置いてどこに行くってんだ」無骨
「いつ戦った?」愁二郎
「目が合えば命を奪い合う。それが俺たち人斬りだろう?」無骨

ダサくないか、このセリフ。
無骨のいかにも凶悪犯です、みたいな無骨のセリフのストレートに滲むダサさ。
頼むからもっとセリフも練ってほしい。
特に悪役は深みのある哲学的なセリフを吐いてほしい。

全体的に、手癖で描いてる感が否めない。
読者を舐めてる感がある。
『こんな感じで描いたら喜ぶでしょ』っていう著者の腹の底がよぎる。
直木賞作家には作品の作り込みを期待しているので本作には落胆した。
直木賞を獲って安心しちゃったのだろうか。

全巻買ったので最後まで読むが、今後、意表を突くシナリオで楽しませてくれると期待したい。

命の奪い合いの中で描かれるドラマが印象的なおすすめ作品はコチラ。

■同志少女よ、敵を撃て

■テスカトリポカ

■虚の伽藍

イクサガミ 天(第一巻)の作品情報

■著者:今村翔吾
■Wikipedia:イクサガミ
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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