■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4
「人は誰かに愛されていると知らなくてはならない」
【小説】逃亡者は北へ向かうのレビュー、批評、評価
『孤狼の血』『盤上の向日葵』『暴虎の牙』『ミカエルの鼓動』の柚月裕子による2025年2月27日刊行のロード小説。
【あらすじ】大震災直後に人の命を奪い、極刑を覚悟しながらもある人物を探すため姿を消した青年。自らの家族も被災した一人の刑事が、執念の捜査で容疑者に迫る。壊れた道、選べなかった人生――混沌とした被災地で繰り広げられる逃亡劇! (Google Books引用)
第173回直木賞候補作品。
柚月裕子さんの作品について、小説は初めて読むのだが、『孤狼の血シリーズ』は映画化されている2作とも鑑賞済み。
男作家顔負けのハードボイルドな警察小説を書く印象が強い。
特に2作目の『孤狼の血LEVEL2』で上林扮する鈴木亮平の悪魔っぷりには、神すらも後ずさるほどの凶悪さで最高に面白かった。
そのため本作には期待を込めて読むに至った。
遺体安置室周りの描写がやたら緻密で胸が苦しくなる。
本作は3.11の東日本大震災によって人生が狂わされていく3人の視点人物からなるストーリーだ。
そのうちの一人が遺体安置所で家族の亡骸と対面するシーンがある。
家族の亡骸の近くに置かれた死体検案書を読み、受傷から命を落とすまでの期間に記載されている3文字に、その人物は安堵する。
『短時間』とだけ書かれていた。
つまり、家族は長く苦しむことなく、すぐにあの世に行けた意味を指す。
私は命を落とした事件のニュースを見るといの一番の被害者の痛みを想像する。
そのため、その人物の感情には共感できた。
大切な人の最期だからこそ、この世に未練はあるだろうが安らかに逝って欲しい。
遺体安置所でのシーンは私の人生観を変えたノンフィクション本で、日航機墜落事故で現場で奮闘した警察官が書いた『墜落遺体』を思い出した。
著者の柚月裕子さんは実際に震災で父と義母を失っている。
彼女が描くからこその臨場感は強烈で、目頭が熱くなった。
このシーンを食らって、どう考えても直木賞受賞は本作一択だと思った。
だが、最後まで読んだところ、個人的にあまり好みの作品ではなかった。
キャラクターがご都合主義すぎる。
柚月裕子さんが描きたい美しさが優先されすぎて、理解不能な言動を取り、感情を抱くキャラが2人いる。
指名手配犯の真柴と、真柴が連れて歩くとある子ども。
お互いが抱く違和感すら覚える感情に対して、読者には何の説明もない。
最後の結末の衝撃を強めるための作者の思惑が垣間見えて、この2人のキャラには人工感があった。
震災というセンシティブな題材を扱っているからこそ、尖ったキャラクターやストーリーを作りづらいのは仕方ないとは思う。
だが、感動の押し売り感は否めない。
真柴の人生を賭した逃避行の末にもぎ取った答えにはさすがに強く心を打たれた。
思わず、自問自答し、納得した。
この素敵な解を知るためだけでも読む価値はある。
今のところ直木賞候補は3冊読んでいるが、受賞の第1候補は『ブレイクショットの軌跡』。
だが個人的には第165回で受賞に至った『テスカトリポカ』のような、有無を言わさずに受賞をもぎ取る突き抜けたストーリーを読みたい。
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■墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便


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