小説『イクサガミ 神(四巻(終))』ネタバレなしの感想。292人による戦いの幕が閉じる

エンタメ小説

■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「明治時代初期の殺伐とした世界観の残酷さ」

【小説】イクサガミ 神のレビュー、批評、評価

『羽州ぼろ鳶組』シリーズ、『童の神』『八本目の槍』『じんかん』『塞王の楯』の𫝆村 翔吾による2025年8月8日刊行の歴史アクション小説。

【あらすじ】最終決戦、開幕。
東京は瞬く間に地獄絵図に染まった。
血と慟哭にまみれる都心の一角で双葉は京八流の仇敵、幻刀斎に出くわしてしまった。
一方の愁二郎は当代最強の剣士と相まみえることに――。
戦う者の矜持を懸けた「蠱毒」がとうとう終わる。
八人の化物と、少女一人。生き残るのは誰だ。(Amazon引用)

 
前3作は、有名漫画のトレースと思える設定、展開が頻出した。
オリジナリティに乏しく、新鮮さに欠ける作風は個人的には合わなかった。
そのため最終巻である本作は期待せずに手に取った。

冒頭は意表を突いた展開が待ち受けていた。
1巻からずっと煽られていた蠱毒の最終目的地の東京で行われる『東京決戦』のルールが開示され、おっと胸が躍った。
読者にも蠱毒参加者たちも伏せられていたため、かなり期待を煽られたが、見事に裏切ってくれた印象。

内容は本作の見どころの一つなので伏せておく。

だが、この一見魅力的に見えたルールには欠点があり、構造的に盛り上がりが尻窄みになる。
結局、中盤以降は無理やり理由をつけて対立構造を作るご都合主義的を見せられた。

あと、東京決戦ルールが本作で描かれたように本当に成立するかは謎だった。
蠱毒連中の思惑通り、参加者たちは翻弄されていたが、そんなに上手くいくのだろうか。
それだけ蠱毒連中のコントロールに及ばない不確定要素の強さがあり、
蠱毒の主催者である川路の性格的に、このルールの採用するのは違和感を覚える。
ただ本編でも語られているが、蠱毒は第一幕の内容で、川路の目的を果たしていると言えるので、
第二幕の東京決戦のルール設定は今回のように厳格さに欠けていても良かったのかもしれない。

双葉が終始、異物。
双葉は第一幕からずっとみんなに助けるられるお荷物的存在。
ずっと私は疑問だった。
双葉自身、みんなに迷惑かけていることに何とも思っていないのか。

私が双葉だったら、みんなが自分を助けてくれるせいで、申し訳なさに耐えられなくなって逃げ出したりすると思う。
人に助けてもらいまくっていも、平然としているある意味メンタル強者の双葉が、本編では邪魔で仕方ない。
一応、あの手この手で、作者は双葉の存在意義を提示してはいたが、戦場において何の役にも立たないのは事実。

戦闘のスペシャリストで、とてつもない鍛錬を乗り越え、強さを手にしてきたキャラたち全員が、邪魔でしかない双葉に優しくする。
本作はそんな魅力的なキャラクターである猛者たちを、双葉の存在によってご都合主義たらしめるのは、見ていられなかった。
もはや双葉がキャラクターキラーであった。

スリラー演出が得意ではない。
双葉の監視者である橡は、露骨に双葉の肩を持つ。
前島に電報を送るため東京の駅逓局に入る行動を止めなかったり。

監視者は最後まで中立であって欲しかった。
例えばデスノートのリュークのような。
監視者までも主人公たちの肩を持ってしまうと、蠱毒の緊迫感が薄れるため。

後、進次郎があっさり脱出し、生き延びてるのが萎える。
蠱毒の世界観の脆さを感じる。
対してデスゲーム物の始祖的存在であるスリラー小説の『バトルロワイヤル』の世界観はめちゃくちゃ強固だった。
ゲームが繰り広げられる孤島からの脱出なんて100%不可能な鉄壁状態。
だからこそ凶悪な世界観が際立って、読者はよりのめり込めた。

本作の最後のほうの戦いは駆け足。
誰の戦いも数日後には記憶から消えてそう。
肝心の幻刀斎戦もあっさり。
散々、幻刀斎との因縁をたっぷり描いてきたのに。
剣の戦いは瞬殺劇でいいけど、何が要因となって勝敗がついたのかは首を傾げる。
この勝敗に納得する読者はどのくらいいるのだろうか。

もしかすると瞬殺劇は映画ではいいが、小説や漫画のような媒体は向いていないのかもしれない。
バイオレンス映画の巨匠、北野武作品は基本的には瞬殺劇。
だからこそ、とんでもない緊張感が漂う。
観客にとって受け身かつ、上映時間制限のある映画に対して、
上映時間のような時間制限がなく、読者が能動的に参加する物語形態の漫画や小説って瞬殺劇の演出が合わない気がした。
戦闘時はもっと時間をかけてキャラクターを描いて欲しいと思ったため。

著者は物語におけるアクションをまるで研究しなかった、というか、キャラの背景を描いて読書に感情移入させればいいとしか思っていないように思える。
確かに感情移入したキャラが勝ったり負けたりすれば読者の心は動く。
だが、感情移入が与えるスリルと、アクションそのものが与えるスリルは別物。
キャラへの感情移入だけでアクションを描くと、勝敗だけにしか読者は感情が動かない。
だから途中までのキンキンやりあってるアクションシーンは惰性でしかない。
極論、読み飛ばした。

しかし、勝敗に関わる情報を上手く扱って戦闘前に提示し、いざアクションシーンに突入したら、それらの情報はどう活かせるのか、と読者はワクワクしてアクションの一挙手一投足を楽しめる。
作者はアクション部分における情報提示の作業をおざなりにし、キャラに感情移入させるだけに甘んじた。
つまり、本作はアクションの物語のていを成していない。

アクションをやるならちゃんと研究してほしい。
ただ作家志望の私からするとダメな小説からしか学べないものもあるので、反面教師として有意義な教材になった。

オリジナリティが炸裂する唯一無二の秀作はコチラ。

■Nの逸脱

■テスカトリポカ

■右園死児報告

■異常 (アノマリー)

イクサガミ 神の作品情報

■著者:今村翔吾
■Wikipedia:イクサガミ
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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