■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★★☆4
「人の本能の美しさ」
【小説】消滅世界のレビュー、批評、評価
『コンビニ人間』『世界99』の村田沙耶香による2015年12月16日刊行のSFドラマ小説。
【あらすじ】世界大戦をきっかけに、人工授精が飛躍的に発達した、もう一つの日本(パラレルワールド)。人は皆、人工授精で子供を産むようになり、生殖と快楽が分離した世界では、夫婦間のセックスは〈近親相姦〉とタブー視され、恋や快楽の対象は、恋人やキャラになる。
そんな世界で父と母の〈交尾〉で生まれた主人公・雨音。彼女は朔と結婚し、母親とは違う、性行為のない清潔で無菌な家族をつくったはずだった。だがあることをきっかけに、朔とともに、千葉にある実験都市・楽園(エデン)に移住する。そこでは男性も人工子宮によって妊娠ができる、〈家族〉によらない新たな繁殖システムが試みられていた(Amazon引用)
2025年11月28日に実写版映画が公開されるということで読むに至った。
私は未読だが、村田沙耶香さんの一番有名な作品といえば芥川賞を受賞した『コンビニ人間』だ。
彼女の著作はデビュー作である『授乳』を読んだのみ。
『授乳』を読む限り、著者は独特の恋愛観や性的な価値観を持っている印象があった。
『授乳』は男が女性に求める母性をくすぐる話など、タイトルのテーマが一貫して描かれる短編集。
本作に話を戻す。
本作も性的な価値観、恋愛観などをテーマとするSF作品。
かなり入り込み辛い作品だった。
平易な文章で描かれてるので、読みやすいし物語の内容も理解しやすい。
しかし、本作で描かれる進化した人間への共感は難しい。
本作は人工授精技術が発達し、ヒトとの恋や性行為を推奨されていない世界。
ヒトとの恋をする人も一部はいるが、アニメなどの架空のキャラクターに恋をする人が大半。
(パンとサーカス的な匂いはあるが、本作は政治についての言及はない。あくまで著者は恋や愛について語りたいと思われる)
何なら夫婦同士の性行為は犯罪扱いとなるので、夫や妻とは別に外で恋人を持つ。
もちろん夫婦は公認で、各々の恋人含め4人で食事をしたりと交流することもある。
主人公を始め、夫婦間での密なスキンシップに嫌悪感を示す、感情が進化した新人類にはまるで共感ができなかった。
そのため、本作にはまるで入り込めなかった。
世界観の説明の詳細を事前に欲しかった。
キャラクターたちに入り込めないのは、彼らの感情や言動を理解ができないため。
なので、せめて『異常な価値観や恋愛観を持ってしまったのは仕方ないよね』と読者が納得できるように、
登場人物たちが強いられた壮絶な経験等を冒頭に提示してほしい。
または主人公だけは読者と同じ感性を持っていて、『この世界はおかしい』と描いてくれるなら良い。
確かにそんな側面もあるが、本作で最も異常性のある部分には主人公は肯定気味。
そのため、まるで感情移入できないキャラクターたちの織りなす人間ドラマは、
対岸でわちゃわちゃやってる感が否めない。
最も違和感を覚えたのは性行為における快楽の行方。
本来、子孫繁栄を生きる目的とする人間を含めた動物たちは、
繁殖のために必要な性行為に快楽を覚える仕様になっている。
本作ではやけにヒトとの性行為に嫌悪を示すキャラクターが出てくる。
快楽は剥奪されたのだろうか。
マスベは普通に行われているので、快楽はあるはず。
だとすれば快楽を超越してまで性行為に嫌悪を示す理由の詳細を教えて欲しい。
そういったディティールが描かれないのでキャラクターの行動にツッコミを入れたくなる。
このように肝心な部分が濁され、ただキャラクターの感情部分のみにフォーカスが当たって描かれるのも本作に入り込みづらい要因。
我々は五感から得た情報からも、感情を揺らす生き物。
殴ってくる人には嫌悪感を覚えるし、声や匂いで恋心をくすぐれる人もいるだろう。
設定がぶっ飛んでいたので興味深く読んだが、
世界観の構築がずさんなところから、本職のSF作家との力の差を感じた印象。
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